このページの要点
- 持ち込みのキャラクターは本人に帰属させ、期間中の利用を事務所に許諾する。事務所企画なら買い取りの条件を具体的に書く。
- 演者からの許諾は「本キャラクターとしての実演」に限り、個人の容貌・肖像と実演以外の声を除外する。
- 中の人の秘密保持は、肯定・否定・引用・共有などの外形的な操作で書き、漏えいには賠償額の予定(民法420条)を置く。
- モデラーの規約では、料金を負担した個人が使う限り所属の変更は許諾の範囲内と明確にする。
結論:キャラクター、演者の実演、中の人の情報、モデル制作者の権利を、別々の条で書く
VTuberの契約が他のタレントの契約と違うのは、活動の顔である「キャラクター」と、その声や動きを担う「演者」が別に存在することです。キャラクターの外見(いわゆるガワ)はイラストレーターやモデラーが作り、その権利は制作者から運営者へと移り、演者はキャラクターとして実演します。そして、演者が誰なのか(いわゆる中の人)は、多くの場合、秘密にされます。
この構造のため、VTuberの契約では、①キャラクター(名前・外見・ロゴ・モデル)の権利、②演者の実演と演者本人の肖像・声、③演者を特定できる情報の秘密保持、④モデルの元になったイラストやモデルの制作者の権利の四つを分けて書く必要があります。これを一つの「知的財産権はすべて運営に帰属する」で済ませると、契約が終わったときに、演者が同じキャラクターで活動できるのか、別の演者に交代できるのか、モデルを買い取れるのか、という問いに契約書が答えられません。
このページでは、事務所がレビュー・作成してきたVTuberの所属契約書、演者の業務委託契約書、秘密保持契約書・プライバシーポリシー、Live2Dモデラーの利用規約、配信素材の制作者の契約書から、この四つの書き方を整理します。肖像や実演家の権利の一般的な考え方は肖像・パブリシティ権のページをご覧ください。
キャラクター(ガワ)の権利と、契約終了後の活動
個人でVTuberとして活動する方が、事務所と所属契約を結ぶ前にレビューを依頼された案件では、事務所の契約書に、キャラクター、名称、ロゴなどの権利がすべて事務所に帰属すること、活動で生まれたコンテンツについても事務所が利用権を持つことが書かれ、その利用権の範囲・期間・独占性が一切限定されていませんでした。報告書では、このままでは契約終了後に同じキャラクターで活動できなくなる可能性があると指摘し、修正の方向として次の4点を示しました。
- 事務所の利用権の範囲を、所属期間中の活動に必要な範囲に限る。
- 利用権の期間を契約期間内に限る。
- 契約終了後に、演者がそのキャラクターで活動を続けられるかどうかを明記する。
- 演者が自分の実績(ポートフォリオ)として過去の活動を紹介することを認める。
キャラクターを持ち込んで所属する個人の方の場合、もともと本人が育ててきたキャラクターの権利が、所属によって事務所に移ってしまうのは大きな問題です。持ち込みのキャラクターは本人に帰属したまま、期間中の利用を事務所に許諾する、という書き方が基本になります。
一方、事務所がキャラクターを企画し、モデルを発注して演者を募集する場合は、キャラクターの権利は事務所に帰属するのが自然です。所属契約書の中には、VTuberのモデルの権利は事務所に帰属し、改変や第三者への提供には事務所の書面による承認が必要としたうえで、退所後に個人で活動したいときは、名前やモデルの買い取りについて相談できるが、価格と条件は事務所の裁量で決める、と定めるものがあります。締結後6か月以内の自己都合による解除に、VTuberのモデル・衣装の制作費を含む違約金を定める例もあります。事務所がモデルに投資している以上、その回収を考えるのは当然ですが、買い取りの道が実際に開かれているかどうかは、タレントにとって退所後の活動を左右します。
書き換えの方向 キャラクターの買い取りの条
退所後の利用
「相談に応じる」と「甲の裁量」だけでは、実際には応じなくてもよい条になります。算定の方法と根拠の提示を書くと、芸能分野の指針が退所時の金銭的な給付に求める考え方(算定根拠の提示と協議)とも合います。
演者の実演とキャラクターを切り分ける:後継演者という設計
声優VTuberのプロジェクトの業務委託契約書のレビューでは、演者からの許諾の対象を「本キャラクターとしての実演」に限定し、演者個人の容貌・肖像と、実演以外の声の利用を明確に除外するよう提案しました。キャラクターとして話した声や動きは運営が使えても、演者が素顔で出たイベントの写真や、演者が別の仕事で話した声まで運営が使えるわけではない、という線を条文に引くためです。
同じ契約書には、キャラクターが演者から独立して存続し、後継の演者に引き継げることを定める条がありました(後継演者の条)。報告書では、この条を評価しています。運営が企画したキャラクターである以上、演者が交代してもキャラクターの活動を続けられることは、運営にとって重要な事業上の利益です。ただし、後継演者の条を置くなら、前の演者が担っていた期間の実演の扱い(アーカイブの公開を続けるか)、前の演者の秘密の保持、前の演者が「元の演者であること」を名乗れるかどうかを、あわせて決めておく必要があります。
特に最後の点は、演者特定情報の秘密保持と表裏の関係にあります。運営が演者の身元を秘密にする以上、前の演者が自分の実績として「このキャラクターを演じていた」と公表することは、秘密保持の条とぶつかり得ます。一方で、演者にとっては、キャラクターとしての活動が唯一の実績という場合もあります。公表を一切認めないのか、運営の承諾を得れば認めるのか、一定の期間が過ぎれば認めるのかを、後継演者の条と秘密保持の条の両方に書いておくのが整合的です。
キャラクターと演者を切り分ける条(設計の例)
| 対象 | 権利・扱い | 契約終了後 |
|---|---|---|
| キャラクターの名前・外見・ロゴ・モデル | 運営に帰属(持ち込みなら本人に帰属し、運営に許諾) | 運営が企画したものは後継演者に引き継げる。持ち込みは本人に戻る |
| キャラクターとしての実演(配信・歌唱・ボイス) | 演者から運営に、目的・期間を定めて許諾 | 公開済みのアーカイブの扱いを別に定める |
| 演者個人の容貌・肖像・実演以外の声 | 許諾の対象外 | 運営は使わない |
| 演者を特定できる情報 | 秘密保持の対象 | 期間の定めなく保持(後述) |
中の人の情報を守る秘密保持:文体より「義務の内容を一義に」
同じプロジェクトでは、スタッフと秘密保持契約を結んでいました。その秘密保持契約書は、演者を特定できる情報(演者特定情報)の保護を中心に据えており、報告書でもその着眼点を評価しています。一方で、「そう受け取られ得る反応(いいね、引用、拡散など)も示しません」「真偽を問わず、肯定も否定もせず」といった書き方は、外形的・客観的な行為に落とし込まなければ、違反したかどうかを裁判所が判定できない、と指摘しました。
依頼者からは、報告書の指摘に対していくつかの質問が寄せられました。そのうち主なものと、事務所の回答は次のとおりです。
ご相談と回答 秘密保持契約の書き方
タレント・スタッフ向けなので、平易な文体にしました。文体を定めた法律はないはずですが、整える必要がありますか。
文体を定めた法律はなく、平易な文体の契約も有効です。問題は文体ではなく精度です。一方が用意して多数の相手と結ぶ契約では、不明確な条項は作成した側に不利に解釈されるおそれがあり、「きちんと」「やりすぎません」「受け取られ得る反応」といった表現は、いざというときに狭く解釈されます。平易な文体のまま、義務の内容を一義にすれば足ります。
秘密情報は、包括的な定義と除外事由で限定しています。個別に列挙するのは非現実的ではありませんか。
その考え方は正当で、包括的な定義と除外事由という組み立て自体は有効です。ただし、個人に対する制限が広すぎると、裁判所で範囲を縮めて解釈されたり、一部が無効とされたりするおそれがあり、秘密情報に当たることの立証は運営の側に残ります。合理的な範囲に画定する微調整を提案しました。
損害賠償に「合理的に必要となった対応費用」を含めています。足りませんか。
記載があること自体は確認しました。ただ、「合理的に」という言葉は相手の反論の材料になり、賠償額の予定を置かないとしているため、損害の立証はすべて運営の側に残り、演者の身元が明らかになったことによる無形の損害は捉えきれません。演者特定情報の漏えいに限って賠償額の予定(民法420条)を置き、それを超える損害は別に請求できる形を提案しました。
業務委託契約書のレビューでも、演者特定情報の漏えいについて賠償を重くする条が「故意又は重大な過失」を要件にしており、軽い過失による漏えいは通常の責任の制限に服してしまう点を指摘し、軽過失も含めた予定額の検討を勧めました。民法420条は、当事者が債務不履行について損害賠償の額を予定できるとし(1項)、違約金は賠償額の予定と推定すると定めています(3項)。演者の身元のように、漏れた後に損害額を証明しにくい情報こそ、予定額を置く意味があります。違約金の一般的な限界は移籍制限・違約金のページで扱います。
演者特定情報の秘密保持(外形的な行為で書いた例)
1「演者特定情報」とは、本キャラクターの演者の氏名、顔写真、住所、連絡先、所属歴その他演者を特定し、又は特定し得る情報をいう。
2乙は、演者特定情報を第三者に開示し、又はインターネット上に投稿してはならない。演者特定情報を含む第三者の投稿について、乙のアカウントから肯定し、否定し、引用し、又は共有する操作をしてはならない。
3乙が前項に違反したときは、乙の故意又は過失の程度にかかわらず、別に定める額を損害賠償の額として甲に支払う。甲に生じた損害がこれを超えるときは、甲はその超える部分の賠償を請求することができる。
第2項は、「そう受け取られ得る反応」を、肯定・否定・引用・共有という操作に置き換えたものです。
オーディションの応募データとプライバシーポリシー
同じプロジェクトのプライバシーポリシーのレビューでは、秘密保持契約で演者特定情報を全力で保護している一方、プライバシーポリシーにはその情報が存在することも書かれていない、と指摘しました。運営が演者の個人情報をどのように取得し、何に使い、誰と共有するのかが、公表しているポリシーに反映されていなかったのです。
もう一つの論点が、演者のオーディションで集める応募データです。応募動画や資料には、人種や病歴などの要配慮個人情報が含まれ得ます。要配慮個人情報は、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などで、本人に対する不当な差別や偏見などが生じないように取扱いに特に配慮を要するものとして定められ(個人情報保護法2条3項)、取得するには、法令に基づく場合などの例外を除いて、事前に本人の同意を得ることが必要です(同法20条2項)。
ヒヤリングの問いと理由 オーディションの応募データ
応募フォームで何を取得するか。本名・年齢・連絡先のほか、顔写真や動画、健康状態を聞くか。
取得する項目を必要な範囲に絞り、要配慮個人情報に当たり得るものは同意を得る文言をフォームに置きます。
審査に関わるのは誰か。外部の審査員や制作会社に見せるか。
第三者に提供するなら、その旨と提供先の範囲をポリシーと応募規約に書きます。
不採用の方のデータを、いつ消去するか。
消去の時期を決め、応募規約で示しておくと、応募者の不安を減らせます。
レビューでは、このほか、個人事業として運営している場合に代表者の氏名がない点、安全管理のために講じた措置の公表が不足している点、ウェブサイトの外部送信(利用者の端末から外部に情報を送る仕組み)についての通知・公表の規律(電気通信事業法27条の12)、外国にある第三者への提供(個人情報保護法28条)への言及が足りない点、秘密保持契約とプライバシーポリシーで所在地や管轄の記載が食い違う点も指摘しました。
モデル制作者との関係:利用規約で決めておくこと
VTuberのモデルの多くは、外部のLive2Dモデラーが作ります。Live2Dモデラーの依頼者の利用規約をレビュー・修正した案件では、次のような点を規約に落としました。
- 外部のイラストレーターの原画をもとにしたモデルは、原画の二次的著作物になり、原画の作者の権利がモデルの利用にも及ぶこと。
- 個人で活動する方には、追加料金なしでモデルの利用を許諾すること。
- 料金を負担した方が個人であれば、その方が事務所に所属したり企業案件を受けたりしても許諾の範囲内であること。利用者を変更する場合や、企業だけが使う取り決めにする場合は事前の承諾を必要とし、合理的な理由なく拒まないこと。
- モデルの編集用のデータ(.cmo3 ファイル)は原則として提供しないこと。
事務所へ移籍するときにモデルを使い続けられるかは、VTuberにとって大きな関心事です。料金を負担した個人が使う限り所属の変更は許諾の範囲内とし、利用者そのものが変わる場合だけ承諾を求める、という線引きは、モデラーの権利を守りつつ、演者の移籍を妨げない設計です。所属の変更そのものの扱いは退所・契約終了後のページで扱います。
キャラクターの名前で開設したSNSや配信のアカウントも、モデルと同じく移籍のときに問題になります。キャラクターの権利が運営にある場合でも、アカウントの管理・利用の主体を誰にするのか、退所時にアカウントを残すのか引き継ぐのかを、キャラクターの条とは別に決めておく必要があります。アカウントの帰属の書き方はアカウント・芸名のページで扱っています。
同じモデラーは、キャラクター付きのモデルを買い切りで販売するサービス(いわゆる魂募集)も行っていました。規約では、限定1点のモデルと汎用のモデルを分け、活動休止中や再デビューの際は利用できるが、引退後は利用できないこと(ただし過去のアーカイブは残してよいこと)、配信で得た収益は購入者のものであり、運営者は所属の管理などの継続的な支援をしないことを定めました。特定商取引法の業務提供誘引販売取引は、商品などを利用する業務を販売者が自ら提供し又はあっせんすることを要件の一つとしています(特定商取引法51条1項)。運営者が仕事の提供やあっせんをしないことを規約で明確にする設計は、この要件との関係を意識したものです。
配信素材の制作者の契約:実績の公開と、VTuber本人の権利
VTuber向けの配信素材(立ち絵の差分、配信画面のデザイン、サムネイルなど)を作る制作者の業務委託契約書を修正した案件では、制作者である依頼者から、条文の意味についていくつか質問がありました。
ご相談と回答 配信素材の制作者の契約
著作権の譲渡を確認する書面は、必ず作らなければなりませんか。
発注者から求められた場合に限り提出する義務がある条です。発注者が代理店やプラットフォームに対して、権利を持っていることを証明する必要が生じたときに備えるためのものです。
実績としての公開に協力する条は、甲と乙が逆ではありませんか。
誤りではありません。制作者が実績として作品を紹介することに、発注者が協力するよう努める、という構造です。クレジットの表記やリンクの掲載の相談に応じる、といった協力を想定しています。
実績の公開で紛争が起きたら制作者が処理する、とは具体的に何ですか。
VTuber本人の肖像・声・名前を紹介に使い、本人や事務所から許諾がないと指摘される場合、運営のガイドラインに反する場合、公式の作品と誤認させる投稿をした場合などです。削除や修正、第三者との直接の対応を制作者が行い、発注者に責任を及ぼさないことを定めています。
途中で解除したときの段階別の報酬に、払い過ぎの返還の条があるのはなぜですか。
進み具合に比べて割合払いが過剰だった場合(ラフを出していないのに50%を受け取っていた場合など)に、返還の根拠にするためです。双方にとって公平な精算の関係を保つための条です。
三つ目の回答のとおり、配信素材の実績を公開するときには、素材そのものの著作権とは別に、そこに描かれたVTuberのキャラクターや名前、演者の声についての権利が問題になります。制作者の契約で実績の公開を認める場合も、キャラクターの権利者の承諾を得てから、という条件を置いておくと安全です。
VTuberの契約で起きがちなこと
よくあるご質問
事務所を辞めたら、同じキャラクターで活動を続けられますか?
契約しだいです。持ち込みのキャラクターなら本人に帰属させ、期間中の利用を事務所に許諾する形が基本です。事務所が企画したキャラクターなら事務所に帰属するのが通常で、退所後の利用は買い取りや利用許諾の条によります。キャラクターの権利がすべて事務所に帰属し、利用権も無限定という契約は、終了後に同じキャラクターで活動できなくなる可能性があります。
モデルを買い取ることはできますか。値段はどう決まりますか?
買い取りの条があればできますが、「相談に応じる」「価格は事務所の裁量」だけでは実際には応じなくてもよい条になります。申込みの権利、合理的な理由がない限り応じる原則、制作費の未回収分などの算定方法と根拠の提示を書いておくのが望ましい形です。
中の人の情報が漏れたとき、どれくらい請求できますか?
損害の額を証明しにくいため、演者特定情報の漏えいに限って賠償額の予定(民法420条)を置き、それを超える損害は別に請求できる形が考えられます。故意・重過失に限る書き方だと軽い過失による漏えいが対象から外れるため、要件にも注意が必要です。
演者を交代できる契約にすることはできますか?
運営が企画したキャラクターなら、キャラクターが演者から独立して存続し、後継の演者に引き継げると定めることができます。その場合も、前の演者の期間のアーカイブの扱い、前の演者の秘密の保持、前の演者が元の演者と名乗れるかどうかをあわせて決めておきます。
事務所に移籍するとき、モデルの利用許諾はどうなりますか?
モデラーの利用規約によります。事務所がレビューした規約では、料金を負担した方が個人であれば、事務所に所属したり企業案件を受けたりしても許諾の範囲内とし、利用者そのものを変える場合だけ事前の承諾を求め、合理的な理由なく拒まない、と定めました。
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