このページの要点
- 専属の範囲を、事務所経由・届出・自由の三段階に分けて書く。自分で獲得した案件は原則タレントが受け取る形も選べる。
- マネジメント業務は準委任(民法656条)を基本とし、事務所に代理権を与えるかどうか、受領の権限を誰が持つかを明記する。
- 利用規約方式で専属契約を結ぶなら、分配率などの中心的な条件は規約の変更ではなく個別の合意で変えると定める。
- 芸能分野の指針(令和7年9月30日策定)は、動画配信者も実演家に含めている。契約の書面化・説明・検討期間も求めている。
結論:最初に決めるのは「何を事務所経由にするか」と「事務所に何の権限を渡すか」
芸能事務所とタレント、ライバー事務所とライバー、VTuberの運営会社と演者の間で結ぶ契約は、題名が「所属契約書」「専属マネジメント契約書」「タレント業務委託契約書」などさまざまでも、骨格は同じです。①タレントのどの活動を事務所経由にするのか(専属の範囲)、②事務所はタレントのために何をし、どこまでの権限を持つのか(マネジメント業務と権限)、③その対価をどう分けるのか、の三つです。ここでいう「専属」とは、契約期間中、タレントが芸能活動の依頼をその事務所を通じてだけ受ける約束のことをいいます。
内閣官房と公正取引委員会が令和7年9月30日に策定した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(令和8年1月1日改正。以下「芸能分野の指針」といいます)も、芸能事務所と実演家の契約の法的性質は業務提携契約や業務委託契約などさまざまで、呼び方としては専属実演家契約や専属マネジメント契約などがあると整理したうえで、実演家が契約している事務所とだけ取引する「専属義務」を負うことを、この種の契約の特徴として挙げています。この指針は、実演家の例として、俳優・歌手などに加え、タレント、お笑い芸人、声優、動画配信者、モデルなども広く含めています。ライバーやVTuberの事務所の契約を作るときも、参考にすべき基準になります。
事務所がこれまで作成・レビューしてきたマネジメント契約を並べると、紛争の芽になりやすいのは、専属の範囲が「芸能活動の一切」まで広がっているのに、事務所の側の義務と権限が「マネジメント業務を行う」の一文で終わっている型です。この不均衡を、範囲を絞る方向と、事務所の役割を具体的に書く方向の両方から直していくのが、改訂の基本の流れになります。報酬の分け方は報酬分配のページ、契約期間と更新は契約期間・解除のページで詳しく扱います。
専属・非専属・利用規約方式の違い
事務所の書類を見ると、マネジメント契約には大きく三つの型があります。どれを選ぶかで、タレントが自分で取ってきた仕事の扱いや、他の事務所との関係が変わります。
マネジメント契約の三つの型
専属型
- 芸能活動の依頼は事務所を通じて受ける
- 他の事務所・興行主との契約は事務所の承諾が必要
- 事務所は育成・営業・スケジュール管理を広く担う
- 期間と更新の条件が最も重要になる
非専属型(エージェント型)
- 他の事務所との並行も認める
- 事務所が関与した案件だけを分配の対象にする
- 利益相反のおそれがあるときの通知・調整の条を置く
- 管理の条項が残りすぎると専属型と変わらなくなる
利用規約方式
- 多数のタレントと同じ条件で結ぶために規約の形にする
- 申込みと同意の記録で契約を成立させる
- 規約の変更の条が論点になる
- 個別の交渉の余地をどこに残すかを決めておく
事務所によっては、タレントごとに専属型と非専属型を選べる建て付けにする例もあります。
非専属型の契約でも、他の事務所と契約・交渉するときは事前に書面で通知すること、利益相反のおそれがあるときは事務所の指示に従うこと、と定めた書式がありました。通知の条を置くこと自体は合理的ですが、「指示に従う」まで書くと、非専属と言いながら専属型と同じ拘束が残ります。非専属型にするなら、利益相反の調整は「協議する」とし、事務所が決められるのは自社が関与する案件の範囲に限る、という書き分けが必要です。
三つの型で書き分ける主な条項
| 条項 | 専属型 | 非専属型 | 利用規約方式 |
|---|---|---|---|
| 専属の範囲 | 芸能活動のうち事務所経由にするものを列挙 | 事務所が関与した案件に限る | 規約本文で一律に定め、個別の除外は申込書に書く |
| 自分で取った仕事 | 事務所経由か、届出で足りるかを決める | 原則としてタレントが自由に受ける | 規約で一律に決めると例外が書きにくい |
| 事務所の権限 | 交渉・窓口・受領の権限を明記 | 関与した案件の交渉・受領 | 同左。規約の変更で権限を広げない |
| 変更の方法 | 双方の合意 | 双方の合意 | 規約の変更の条(要件と周知) |
専属の範囲を書きすぎない:自己営業・無償出演・オーディション
専属の範囲の書き方で多いのは、「事務所の承認する範囲内においてのみ芸能活動を行う」「競合する事業者と連絡等の一切の関与を行ってはならない」「タレントが自ら獲得した案件も、すべて事務所を通じて受ける」と、活動のすべてを事務所の判断の下に置く型です。さらに、他の事務所や興行主との契約だけでなく、無償の出演や自主制作の作品まで事前の承諾を必要とし、事務所が関与しないオーディションへの応募も禁止する書式もありました。
専属である以上、ある程度の管理は必要です。しかし、範囲を広げすぎると二つの問題が出ます。一つは、タレント側から見て、何をすれば違反になるのかが分からなくなることです。友人の自主制作の映像に無償で出ることや、趣味の配信まで承諾が要るのかが条文から読み取れないと、違反を理由にした措置や違約金の争いにつながります。もう一つは、拘束が強いほど、契約の名前が業務委託であっても、事務所の指揮命令の下で働いているのではないかという疑いを強めることです(諾否の自由と配信ノルマのページ)。
改訂の際は、専属の範囲を「芸能活動」の一語で済ませず、次のように段階を分けて書く方法が考えられます。
- 事務所を通じて受ける活動(テレビ・舞台・広告・イベント出演など)を列挙する。
- 事前の届出で足りる活動(無償の出演、自主制作の作品、個人のSNSでの発信など)を分ける。届出の目的は、事務所の案件との重なりや、品位を損なうおそれの確認に限る。
- タレントが自分で獲得した案件の扱いを決める。事務所が関与しないなら原則としてタレントが全額を受け取り、事務所が交渉や契約書の確認など実質的に関与したときだけ、あらかじめ定めた上限の範囲で手数料を定める、という書き方にした改訂例があります。
- オーディションは、事務所経由で応募するものと、タレントが自由に応募できるものを分け、合格して出演が決まったときに事務所へ通知する条を置く。
改訂の例 自分で獲得した案件の手数料
自己営業の案件
「関与する場合」だけでは、紹介メールを1通転送しただけでも手数料の対象になり得ます。原則と例外を逆にし、「実質的に関与」と「上限」を書くことで、タレントが自分で仕事を取る意欲を損なわず、事務所の関与の対価も確保できます。
事務所の権限の書き方:準委任、代理権、第三者との関係
専属の範囲を絞る一方で、事務所が何をするのかは具体的に書きます。ライバー事務所の既存の契約書を全面的に改訂した案件では、まず、マネジメント業務は「民法上の準委任を基本的な性質とする」と定めました。準委任とは、法律行為ではない事務(営業活動、スケジュール調整、配信の助言など)を任せる契約で、民法は委任の規定を準用しています(民法656条)。結果の完成を約束する請負とは違い、事務所は善良な管理者としての注意をもって業務を行う義務を負い、仕事の獲得や売上を保証するものではない、という位置付けがはっきりします。
次に、事務所は「ライバーを代理して契約を締結する権限を有しない」と明記しました。事務所が取引先と条件を交渉することはあっても、契約を結ぶのはライバー本人の承諾を得てから、という順序を条文に置く趣旨です。逆に、芸能事務所が取引先と出演契約を結び、出演料を事務所が受け取ってから分配する型にするなら、事務所が当事者になるのか、タレントの代理人になるのか、受領の権限だけを持つのかを書き分け、出演料を事務所が受け取る根拠となる受領の権限をタレントから与える条を置きます。ここを書かないまま「出演料は事務所に帰属する」とだけ定めると、タレントの実演の対価なのか事務所の売上なのかが曖昧になります。
マネジメント業務の性質と権限(改訂例の要旨)
1本契約に基づくマネジメント業務は、民法上の準委任を基本的な性質とし、甲は、善良な管理者の注意をもってこれを行う。甲は、乙の活動による売上、案件の獲得その他特定の成果を保証しない。
2甲は、乙の活動に関する取引先との交渉の窓口となることができる。ただし、甲は、乙の個別の承諾なく、乙を代理して契約を締結し、又は乙に義務を負わせる権限を有しない。
3本契約は、プラットフォーム運営事業者、一次代理店、広告主その他の第三者を本契約の当事者とするものではなく、これらの者と甲との契約は、乙の同意なく乙の権利を制限するものではない。
第3項は、事務所が上位の代理店やプラットフォームと結んでいる契約の条件を、ライバーとの契約に持ち込まないための条です。上位の規約に従う必要がある事項は、その内容をライバーに示して個別に合意します。
第3項のように、契約の当事者でない者を明記する条は、ライブ配信のように事務所の上に代理店やプラットフォームがある構造で特に意味を持ちます。事務所が上位の判断を理由にライバーの権利を一方的に制限する余地を小さくできるからです(ライバー事務所の契約のページ)。
利用規約で専属マネジメントを結ぶときの注意
多数のアーティストと同じ条件で契約するために、専属マネジメントを「利用規約」の形で結ぶ書式もありました。その規約では、当社に全世界・独占的に業務を委託すること、第三者からの対価を受け取る権限を当社が独占すること、そして当社が個別の同意なく規約を変更できることが定められていました。
規約の変更の条は、民法の「定型約款」の仕組みを前提にしています。民法は、特定の者が不特定多数の者と行う取引で、内容が画一的であることが双方にとって合理的なものを「定型取引」とし、その取引で契約の内容にする目的で準備された条項の総体を「定型約款」と呼んでいます(民法548条の2第1項)。定型約款は、一定の要件のもとで個別の合意なしに変更できます(民法548条の4第1項)。その要件は、相手方の一般の利益に合う変更であるか、契約をした目的に反しない変更で、必要性・変更後の内容の相当性などの事情から見て合理的であることです。変更するときは、効力の発生時期を決め、変更の内容とあわせてインターネットなどで周知します(同条1項・2項)。
専属マネジメントは、活動の方針や分配の条件をタレントごとに話し合うことが予定されている契約です。これが定型取引に当たるかどうかには疑問が残り、当たらないと判断されれば、規約の変更の条は個別の合意なしに効力を持ちません。さらに、定型約款に当たる場合でも、タレントの権利を狭めたり義務を重くしたりする条項で、信義則に反してタレントに一方的に不利なものは、そもそも合意の対象から外れます(民法548条の2第2項)。分配率や専属の範囲のような中心的な条件は、規約の変更ではなく個別の合意で変える、と規約自体に書いておくのが安全です。
古い型の専属契約を作り直すとき
依頼者が以前から使っていた専属契約を見直す案件では、業界で長く使われてきた型の文言がそのまま残っていることがあります。たとえば次のような条です。
- タレントは、事務所の指定するものにのみ出演する。
- タレントの実演を第三者に録音・録画させ、放送を許諾する権利を事務所に与え、タレント自らはこれを行使しない。
- 第三者から受け取る報酬はすべて事務所に帰属し、タレントには歩合による専属料を支払う。
- タレントは、事務所の指示に従って、すべての労務を提供する義務を負う。
このうち最後の「労務を提供する」という言い方は、雇用契約を連想させます。業務委託として組むなら、「実演その他の役務を提供する」とし、指示ではなく個別案件ごとの合意で業務の内容を決める形に改めます。実演の録音・録画の権利を事務所に与える条は、何の目的で、どの期間、どの範囲で使うのかが書かれていないと、契約が終わった後の扱いで必ず争いになります。権利の処理の考え方は肖像・パブリシティ権のページで詳しく説明します。
報酬の決め方も見直しの対象です。第三者からの報酬をすべて事務所に帰属させ、タレントには専属料を支払う型では、専属料の決め方が契約の中心になります。芸能分野の指針は、報酬を固定制にしたうえで長期間据え置き、歩合制への移行も認めないことを、問題となり得る行動例に挙げています。固定の専属料にするなら、見直しの時期(更新時や一年ごと)と協議の手順を、歩合にするなら母数と率を、それぞれ条文に置いておきます。
改訂の例 所属契約書の起案から確定まで
所属の形態と期間
選択式のまま確定させると、どちらの型の条文が適用されるのかが読み手によって変わります。確定した時点で、使わない側の文言は残さず削ります。
契約終了後の信用毀損の禁止
終了後の行為の制限は、移籍・独立後の活動を縛る条項と受け取られやすく、芸能分野の指針も退所後の活動制限には厳しい姿勢を示しています。名誉毀損などの違法な行為は、契約がなくても責任を問えます。
通知の方法
日常の連絡がメッセージアプリで行われる実態に合わせないと、通知の効力そのものが争われます。
ヒヤリングで決めること
立ち上げ期のタレント事務所から依頼を受けた案件では、マネジメント契約の作成方針を提案書にまとめ、全11部57問のヒヤリングシートのうち4部をマネジメント契約にあてました。提案書の方針は、専属義務は明確かつ厳格に定め、契約終了後の制限は置かないか、置くとしても期間と範囲を最小限にする、というものです。期間中のルールを厳しくする代わりに、出口を開けておくという考え方です。
ヒヤリングの問いと理由 マネジメント契約の骨格
専属型にするか、非専属・エージェント型を併用するか、タレントごとに選べる建て付けにするか。
タレントの経歴や活動の場によって適した型が違います。一つの型に全員を当てはめるより、基本契約を共通にして、型の違いを別紙で選ばせる方が運用しやすいことがあります。
タレントが自分で取ってきた仕事を、事務所経由にするか、届出で足りるとするか。
自己営業の扱いは、分配と専属の範囲の両方に影響します。ここが空白のままだと、タレントが個人で受けた案件の売上を事務所が後から請求する、という争いになります。
事務所は契約の当事者になるのか、窓口・受領だけを担うのか。
取引先との契約の当事者が誰かで、出演料の請求権、トラブル時の責任、インボイスの発行者まで変わります。
事務所が提供するマネジメント業務を、どこまで具体的に書けるか。
営業、スケジュール管理、レッスンの手配、SNSの助言、契約書の確認など、事務所の役割が書かれていると、分配率の根拠を説明しやすくなります。
骨格を決めたら、契約の結び方も整えます。芸能分野の指針は、契約内容(業務の内容、報酬額の算出方法など)を明確にしたうえで契約を書面で行うこと、権利や芸名の帰属、報酬、退所後を含む活動を制約し得る条項などの重要な内容を、その目的を含めて十分に説明すること、契約の案を示してから締結までに一定の期間を設け、その場での締結を強要しないことを、事務所が採るべき行動として挙げています。未成年の実演家との契約では、親権者に同席してもらい、初回は説明にとどめて契約書案を持ち帰ってもらう例が、参考となる行動例として紹介されています。事務所の契約書の改訂では、署名欄の前に「契約書案の交付日」と「締結日」を記載する欄を設け、検討の期間を置いたことを記録に残す方法もとれます。
専属マネジメント契約で起きがちなこと
よくあるご質問
専属契約と非専属契約では、何が一番変わりますか?
他の事務所や取引先と直接仕事をしてよいかどうかです。専属型では芸能活動の依頼を事務所を通じて受けるのが原則になり、非専属型では事務所が関与した案件だけが分配の対象になります。非専属型でも、他社との契約に事務所の指示を必要とする条が残っていると、実質は専属と変わらなくなります。
自分で取ってきた仕事も、事務所を通さなければいけませんか?
契約の書き方しだいです。すべて事務所経由とする書式もありますが、事務所が関与しない案件は原則としてタレントが全額を受け取り、事務所が実質的に関与したときだけ上限を決めて手数料を定める、という改訂例もあります。契約書で、事務所経由・届出・自由のどれに当たるかを確認してください。
利用規約の形で専属契約を結ぶことはできますか?
形式としては可能ですが、規約の変更の条で分配率などを一方的に変えられるかには疑問があります。民法の定型約款の変更(548条の4)は定型取引であることが前提で、個別の条件を話し合う専属マネジメントがこれに当たるかは慎重に考える必要があります。中心的な条件は個別の合意で変えると定めておくのが安全です。
事務所はタレントの代わりに契約を結べますか?
契約で代理権を与えていなければ、結べません。ライバー事務所の改訂例では、事務所は交渉の窓口にはなるが、ライバーの個別の承諾なく代理して契約を結ぶ権限はない、と明記しました。事務所を当事者にするのか、代理人にするのか、受領の権限だけを持たせるのかを条文で決めておきます。
マネジメント契約は委任ですか、請負ですか?
事務所が行う営業やスケジュール管理は、結果の完成を約束するものではないため、準委任(民法656条)として組むのが一般的です。準委任と明記しておくと、事務所が仕事の獲得や売上を保証するものではないこと、善良な管理者の注意をもって業務を行う義務を負うことがはっきりします。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、活動の実態や契約の全体の内容によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた芸能プロダクションの所属契約書・専属マネジメント契約書・タレント業務委託契約書、ライバー事務所の契約書、VTuberの演者の業務委託契約書・秘密保持契約書・プライバシーポリシー、Live2Dモデルの利用規約、歌唱実演許諾契約書・楽曲の契約書、イメージキャラクター契約書、写真集の出版許諾契約書、提案書・ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針(公正取引委員会) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)