諾否の自由と配信ノルマ:業務委託の契約文言

契約の名前を業務委託にしても、運用が雇用と変わらなければ、違約金をはじめ契約の設計全体が崩れます。

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「拘束する目的ではない」と但し書きを付けても、連絡が取れる時間帯を事務所が指定している事実は変わりません。

このページの要点

  • 配信の日時・頻度・内容はライバーが決め、事務所は数値を一律に義務付けない。案件を断ったことだけを理由に不利益に扱わない。
  • 事務所の「指導」は、違法な配信の是正を除き、従う義務のない助言にとどめる。
  • 違反時の措置は、事実の確認・通知・弁明・是正期間・必要最小限の措置という手続とセットで書く。
  • 私生活の包括的な禁止は避け、ファンとの関係の悪用など具体的な行為で書く。

結論:業務委託として組むなら「断れる」「自分で決められる」を条文と運用の両方に置く

タレントやライバー、VTuberの演者との契約を「業務委託」として組むとき、事務所が最も注意すべきなのは、契約書の文言と実際の運用が、雇用と変わらない指揮命令の関係になっていないかどうかです。契約の名前を業務委託にしても、実態として事務所の指揮命令の下で時間的・場所的に拘束されて働いていれば、労働者と評価される可能性があります。そうなると、違約金や損害賠償額をあらかじめ定める契約は労働基準法16条で禁止されているため、固定の違約金の条項はそのまま使えなくなり、契約の設計全体が崩れます。

芸能分野の指針も、実演家と芸能事務所はそれぞれ独立した事業者で雇用関係にはなく、事務所は実演家に指揮命令をするものではないとし、事務所は提案や説得をすることはあっても強制はできず、実演家は意に沿わない業務を断ることもできる、と述べています。そのうえで、取引先から依頼された業務の内容を事前に実演家に示して意向を確認すること、実演家が特定の業務を断ったことを理由に他の業務も含めて営業活動をしないといった報復をしないことを、事務所が採るべき行動として挙げています。

指針は同時に、育成の段階の実演家については、将来を見据えた育成やプロモーションの観点から、事務所が希望していない業務を受けるよう相当の提案・説得をすること自体は問題にならない、ともしています。提案や説得と、強制との間に線を引き、最後に決めるのは実演家本人である、という構造を契約書にも反映させることが求められています。

このページでは、労働者かどうかの判断そのものではなく、契約書のどの条項が指揮命令や専属性を推認させる要素になりやすく、どう書き換えるかを、事務所が作成・レビューしてきた書類から整理します。専属の範囲の書き方は専属マネジメント契約のページもあわせてご覧ください。

報告書が「指揮監督を推認させ得る」と指摘した条項

声優がVTuberの演者を務めるプロジェクトの運営者が自作した業務委託契約書をレビューした報告書では、次の4つの条項が、組み合わさることで指揮監督や専属性を推認させ得る要素になると指摘しました。

組み合わさると拘束が強く見える条項

条項原案の内容推認させ得る理由
投稿・配信の量の義務週1回以上の投稿・配信を義務付ける仕事の量を事務所が決めているように見える
ガイドライン・スケジュール管理運営のガイドラインに従い、スケジュールを運営が管理する業務の進め方と時間の使い方に指示が及ぶ
配信チャンネルの保有配信チャンネルを運営が保有する演者が自分の事業として活動しているように見えにくい
競業避止他の活動を制限する専属性が強く、他から収入を得る道が狭い

報告書は、是正は条文よりも運用にある、と結んでいます。量の義務を「協議のうえ決定」に改めても、実際には運営が一方的に決めていれば意味がありません。

報告書が示した方向は、量の義務を「協議のうえ決定する」建て付けにし、その建て付けを実態でも維持することでした。条文の上で協議と書くだけでなく、配信の頻度を決めるときに演者の希望を聞いた記録を残す、演者が提案した頻度を受け入れた例を作る、といった運用まで含めて設計します。

配信ノルマ・指導・休みの申請:書き換えの例

ライバー事務所の既存の契約書に逐条でコメントした案件では、「指導」「改善要請」という表現も、運用しだいでは指揮命令と評価される余地がある、と指摘しました。そのうえで事務所が全面的に改訂した契約書では、次のような条を置いています。

ライバーの裁量と諾否の自由(改訂例の要旨)

1乙は、ライバー活動を行う日時、場所、頻度、内容及び方法を自ら決定する。甲は、特定の配信時間、配信日数、売上その他の数値を一律に義務付けるものではない。

2甲が乙に個別の案件を提案した場合、乙はこれを受けるかどうかを自由に決めることができる。甲は、乙が案件を拒否したことのみを理由として、乙に不合理な不利益な取扱いをしてはならない。

3甲の助言は、乙の活動を支援するための提案であり、乙はこれに従う義務を負わない。

4本契約の性質は、その名称又は形式のみによって決定されるものではなく、甲及び乙は、実際の運用においても前各項の趣旨を尊重する。

第4項は、名前を業務委託にすれば足りるという誤解を、双方が契約書の中で確認しておくための条です。

これに対し、同じような事務所の契約書で、次のような条を見かけます。

  • 毎月15日までに翌月の希望休を申請する。
  • 事務所からの連絡には、原則として24時間以内に応答する。
  • 業務を休む場合は、事務所の承認を得る。
  • 毎週の定例ミーティングに参加する。
  • 午前10時から午後7時まで連絡が取れるよう努める(労働時間を拘束する目的ではない)。

「休み」「承認」「定例ミーティングへの参加義務」という言葉は、出勤日を事務所が管理しているように読めます。最後の例のように「拘束する目的ではない」と但し書きを付けても、連絡が取れる時間帯を指定していること自体は変わりません。改訂の方向は、「休みの申請」を「活動予定の共有」に、「承認」を「案件の調整のための連絡」に、「参加義務」を「参加を希望する者のための機会」に置き換え、連絡への応答も「合理的な期間内」とする書き方です。ただし、これはライバー本人との契約の話で、事務所が雇用するスタッフとの関係ではありません。

書き換えの方向 配信ノルマと指導の条

配信の量

よく見られる書き方ライバーは、事務所の定める配信時間・配信日数を満たすよう努める。
書き換えの例ライバーは、配信の日時・頻度を自ら決定する。事務所は目安を提案できるが、一律に義務付けない。

数値の義務と、未達のときの措置が組み合わさると、仕事の量と時間を事務所が決めていると評価されやすくなります。

指導

よく見られる書き方事務所は、ライバーの配信内容について指導・改善要請を行い、ライバーはこれに従う。
書き換えの例事務所は、配信の改善のための助言を行うことができる。ただし、法令やプラットフォームの規約に違反する配信の是正を求める場合を除き、ライバーは助言に従う義務を負わない。

違法な配信の是正のように、事務所が求めなければならない事項は残し、それ以外は助言にとどめる、と線を引きます。

提案書で示した設計:判断の要素を契約文言で満たす

立ち上げ期のタレント事務所に向けた提案書では、芸能タレントの労働者性を判断する際に用いられてきた要素を一覧にし、契約文言でそれぞれを満たす設計を示しました。その要素とは、タレントの実演に他人では代わりがきかない個性があること、報酬が稼働時間に応じて決まるものでないこと、リハーサルや出演の都合による時間の制約はあっても事務所との関係で時間的に拘束されていないこと、契約の形が雇用契約でないこと、の4つです。

ヒヤリングの問いと理由 労働者性に関係する設計

  1. タレントが案件を受けない選択を認めるか。

    諾否の自由は、労働者性を否定する方向に働く最も重要な要素の一つです。断った場合に不利益に扱わないことまで書いておきます。

  2. レッスンへの参加は義務か、任意か。

    参加を義務にし、出欠や時間を事務所が管理すると、労働者性を強める方向に働きます。育成のためのレッスンは「機会の提供」とし、費用の負担とあわせて決めます。

  3. 固定額(最低保証)を設けるか。

    最低保証そのものは禁止されませんが、稼働時間に応じて支払う形にすると、報酬が時間に応じて決まるという要素に近づきます。案件や月単位の保証とし、時間給の形にしない設計が必要です。

回答ごとに、その選択が契約のどの条に影響するかを注記して返す形にしました。

4つの要素を条項に置き換えると、たとえば次のような形が考えられます。代わりのきかない個性については、取引先からの指名による起用を前提とし、代わりの人を立てるときは本人の承諾を得ること。報酬については、案件単位又は売上に対する歩合とし、稼働時間に応じて計算しないこと。時間の拘束については、出演の日時は取引先との調整で決まるものとし、事務所への出勤や待機を求めないこと。契約の形については、業務委託として請求書による支払とし、タレントが他の収入源を持つことを妨げないこと。一つの条だけで労働者性が決まるわけではないため、こうした条を組み合わせて、全体として独立した事業者どうしの契約として読めるようにする、という考え方です。

提案書は、違約金についても、労働者と認められる場合を想定して高額の固定違約金の条項は採用せず、現に投下した費用と現に発生した損害の範囲で請求する設計を勧めています(移籍制限・違約金のページ)。

違反があったときの措置には手続を書く

タレントとの契約には、タレントが契約に違反したときの措置として、「業務指導、改善命令、契約見直し、出演停止、損害賠償の請求、契約解除」のような段階を列挙するものが多くあります。こうした措置は、内容によっては懲戒処分に似た外観を持つため、いつ、どのような手続で行うかを、措置の種類とあわせて書いておくことが大切です。手続が書かれていないと、事務所の一方的な判断で活動が止められる契約と受け取られます。

個人でVTuberとして活動する方が、所属を予定している事務所から示された契約書のレビューを依頼された案件でも、活動停止・分配の停止・解除の措置について、事前の通知義務、弁明の機会、是正期間の付与といった基本的なプロセスが定められていない、と指摘しました。

違反が疑われるときの手続の流れ(改訂例)

  1. 事実の確認事務所は、措置の前に事実関係を確認し、根拠となる条項を特定する。
  2. 通知措置の内容・理由・根拠条項をタレントに通知する。
  3. 弁明の機会タレントは、通知を受けた日から一定の営業日以内に、書面又は電磁的方法で弁明できる。
  4. 是正期間是正が可能な違反は、相当の期間を定めて是正を求め、是正されなければ措置をとる。
  5. 措置の実施措置は違反の程度に応じた必要最小限のものとし、確定した報酬の支払は留保しない。

タレント業務委託基本契約書の改訂では、措置を通知した後、5営業日以内に書面で弁明の機会を与える条を置きました。

ライバー事務所の改訂版でも、活動の一時停止は理由と予定期間を通知し、必要最小限の範囲にとどめ、一時停止と直接関係のない確定済みの報酬の支払を不当に留保してはならない、と定めています。措置と報酬の関係は報酬分配のページでも触れます。

措置の種類と、条文に書いておく要件

措置要件として書くこと避けたい書き方
助言・改善の提案目的(法令・規約の遵守、品位の保持など)を示して行う「改善命令」として従う義務を課す
個別案件からの交代取引先との契約上必要な場合に限り、理由を説明する事務所の判断だけで理由を示さずに交代させる
活動の一時停止理由と予定期間の通知、必要最小限、確定報酬の支払の継続期間を定めない停止、分配の全面的な停止
損害賠償の請求現に生じた損害の範囲で、算定の根拠を示す違反の有無を問わない一律の金額
契約の解除催告と是正期間(重大な違反は無催告)を区別して列挙「事務所が不適当と判断したとき」の包括条項

解除の手続は契約期間・解除のページで詳しく扱います。

私生活とSNSのルール:包括的な禁止ではなく、行為で書く

タレントの契約には、私生活やSNSでの振る舞いについてのルールが入ることがあります。事務所の書類には、ファンとの私的な連絡・交流を禁止する条、SNSの利用の規範と炎上の防止、ステルスマーケティングへの対応、誹謗中傷や生成AIで作られた虚偽の画像・動画を見つけたときの報告と措置を定めた条などがありました。

こうしたルールは、事務所とタレントの双方を守るために必要な場面があります。ただ、立ち上げ期の事務所への提案書は、恋愛の禁止のような私生活への包括的な介入は避け、「企画やグループの価値を毀損する行為の禁止」という、行為の態様に着目した書き方にするよう勧めました。私生活の全体を事務所の管理の下に置く条は、拘束の強さという点でも、公序良俗(民法90条)との関係でも、争いになりやすいからです。

書き換えの方向 私生活に関する条

交際・私生活

よく見られる書き方タレントは、契約期間中、恋愛・交際をしてはならない。
書き換えの例タレントは、ファンとの間で、活動上の立場を利用して金銭・物品を受け取り、又は私的な面会を求める行為をしてはならない。企画又はグループの価値を著しく損なうおそれのある行為をするときは、事前に事務所と協議する。

禁止の対象を、ファンとの関係の悪用や、企画の価値を損なう具体的な行為に絞ります。私生活の全体を禁止する書き方は、有効性を争われやすくなります。

ヒヤリングの問いと理由 SNSと炎上への備え

  1. 炎上したとき、活動を休止するかどうかを誰が決めるか。

    休止の判断を事務所だけに委ねると、一方的な活動停止と同じ問題が生じます。協議の手順と、緊急時に事務所が一時的に判断できる範囲を分けて書きます。

  2. 炎上の対応にかかった実費(専門家の費用、声明文の作成など)を誰が負担するか。

    タレントの帰責の程度に応じた分担にするか、事務所の負担とするかを決めます。

  3. 声明を出すかどうか、文面の最終決定権を誰が持つか。

    タレント本人の名前で出す声明を事務所だけで決めると、本人の意思と食い違うことがあります。

  4. 投稿の一時停止を求められる場面を、どう限定するか。

    法令違反や権利侵害のおそれがあるときなど、具体的な場面を列挙します。

ハラスメントの相談と、専門家への開示

業務委託で働くフリーランスについても、発注する事業者には、ハラスメントの相談に応じ適切に対応するための体制の整備などの措置が義務付けられ(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律〔以下「フリーランス法」〕14条1項)、相談したことを理由とする契約の解除などの不利益な取扱いは禁止されています(同条2項)。対象になるのは、委託する側がフリーランス法の「特定業務委託事業者」(従業員を使用する事業者など)で、受ける側が「特定受託事業者」(従業員を使用しない個人など)である場合です(同法2条1項・6項)。

ライバー事務所の改訂版では、ハラスメントの相談体制を設け、相談や申告を理由とする不利益な取扱いを禁止し、育児・介護などとの両立についての配慮を検討し、危険な配信を強制しないことを定めました。ライブ配信では、視聴者の要望や投げ銭に応えて、長時間の連続配信、深夜の屋外での配信、身体に負担のかかる企画などがエスカレートしがちです。事務所が売上のためにそうした企画を求めないこと、ライバーが危険を感じた企画を断れることを条文にしておくのは、ライバーの安全と事務所の信用の両方を守る手当てです。また、ライバーが契約内容を弁護士などの専門家に開示して相談すること、法令違反を行政機関に申告・相談することを、秘密保持の条が妨げないことも明記しています。芸能分野の指針も、実演家が契約内容を第三者に相談できるよう配慮すること、契約の案の提示から締結まで一定の期間を設けることを、事務所が採るべき行動として挙げています。

育児・介護との両立への配慮も、フリーランス法に定めがあります。6か月以上の期間行う業務委託(継続的業務委託。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令3条)では、特定受託事業者からの申出に応じて、妊娠、出産、育児又は介護と両立しつつ業務に従事できるよう、必要な配慮をしなければなりません(フリーランス法13条1項)。それより短い業務委託では、同じ配慮をするよう努める義務になります(同条2項)。マネジメント契約は1年や2年の期間で結ばれることが多いため、配慮の申出の窓口と、配信の頻度や出演の時期を調整する手順を、契約書か運用の規程に書いておくと実際に動かしやすくなります。

諾否の自由と配信ノルマで起きがちなこと

よくあるご質問

契約書に「業務委託」と書いておけば、雇用にはなりませんか?

名前だけでは決まりません。実際に事務所の指揮命令の下で時間的・場所的に拘束されていれば、労働者と評価される可能性があります。改訂例では、契約の性質は名称や形式だけで決まるものではないと双方で確認し、配信の日時や頻度をライバーが自ら決める条を置きました。

配信ノルマ(配信時間や日数の義務)を契約に書くと、何が問題ですか?

仕事の量と時間を事務所が決めていると評価されやすくなり、未達のときの措置と組み合わさると、指揮監督を推認させる要素になります。目安を提案するのはよいとしても、一律の義務にせず、協議で決める建て付けとその運用を維持することが大切です。

事務所の「指導」は、どこまで書けますか?

法令やプラットフォームの規約に違反する配信の是正のように、事務所が求めなければならない事項は書けます。それ以外は「助言」とし、従う義務を負わないとしておくのが、業務委託の関係にそった書き方です。

違反したときの措置に、手続を書く理由は何ですか?

措置の種類だけが並んでいると、事務所の一方的な判断で活動が止められる契約と受け取られ、措置の有効性も争われやすくなります。事前の通知、弁明の機会、是正期間、必要最小限の措置という手続を置くことで、措置の正当性を説明しやすくなります。

仕事を断ったら、契約を切られても仕方ないのでしょうか?

改訂例では、案件を拒否したことのみを理由として不合理な不利益な取扱いをしてはならない、と定めています。芸能分野の指針も、実演家が特定の業務を断ったことを理由に他の業務も含めて営業活動をしないといった報復をしないことを、事務所が採るべき行動に挙げています。

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