このページの要点
- 分配の母数をグロス(総額)にするかネット(経費控除後)にするかを決め、控除できる経費を列挙する。
- 明細には、案件ごとの契約金額の総額、分配額又は比率、控除した費用の項目と金額を載せる(芸能分野の指針)。
- 分配率の変更は、理由の説明・予告・協議と合意の三つを置く。控除と留保は限定する。
- インボイス未登録を理由に支払時に消費税相当額を差し引かず、更新時などに協議して報酬の額を合意する。
結論:「何%」より先に、母数・控除する経費・支払時期・明細の四つを決める
マネジメント契約の報酬の条でいちばん揉めるのは、「売上の何%をタレントに支払う」とだけ書かれている型です。立ち上げ期のタレント事務所に向けた提案書でも、この型を最も揉める書き方として挙げ、①分配の母数(何に率を掛けるのか)、②母数から差し引く経費、③支払の時期、④明細の出し方を必ず決めるよう提案しました。
芸能分野の指針も、契約締結時・更新時、又は一年ごとなどの相当期間ごとに、実演家と十分に協議したうえで、報酬(二次使用料、SNSやファンクラブの運営、グッズ販売による収益などの配分を含む)の額・歩合の率、実演家が負担する経費(報酬から控除する経費)などの条件を、できる限り契約上明記すべきだとしています。あわせて、契約に定めていなかった経費を請求し又は報酬から控除するときは、十分に説明し、協議のうえ合意した場合にだけ行うべきだとしています。
このページでは、事務所が作成・レビューしてきた契約書の分配の条を並べ、グロス(総額)とネット(経費控除後)の違い、経費の控除と明細、自己営業の案件、収益の種類ごとの分配率、分配率の変更、インボイスと消費税の扱いを順に整理します。ライブ配信の事務所に特有の、投げ銭の流れと事務所の取り分はライバー事務所の契約のページで扱います。
グロスかネットか:「50%ずつ」が50%にならない理由
個人のVTuberが事務所との所属契約をレビューに出した案件では、収益を50%ずつ分配すると書かれていましたが、分配の基準は「売上」で、配信機材費、通信費などは依頼者の負担とされていました。報告書では、形式上は50%であっても、実際の利益で見るとそれを下回ると指摘し、分配の母数を必要経費控除後の利益にする方向の修正を示しました。
分配の母数の二つの考え方
グロス(総額)型
- 売上の総額に率を掛ける
- 計算が簡単で、タレントが金額を確かめやすい
- 経費を誰が負担するかを別に決める必要がある
- タレント側だけが経費を負担すると、実質の取り分が下がる
ネット(経費控除後)型
- 売上から決めた経費を差し引いた額に率を掛ける
- 事務所が先に負担した経費を回収しやすい
- 控除できる経費の範囲を列挙しないと、取り分が読めない
- 明細の開示とセットにしないと不信を招く
ヒヤリングシートでは、グロスとネットのどちらにするかを選んでもらい、その答えに合わせて経費の条を作りました。
同じ「50%」でも取り分が変わる計算の例(売上を100とした場合の比率で表示)
| 計算の方法 | タレントの受取 | タレントが負担する経費 | 手元に残る割合 |
|---|---|---|---|
| グロス型・経費はタレント負担(経費20) | 100×50%=50 | 20 | 30(売上の30%) |
| グロス型・経費は事務所負担(経費20) | 100×50%=50 | 0 | 50(売上の50%) |
| ネット型・経費を先に控除(経費20) | (100−20)×50%=40 | 0(控除済み) | 40(売上の40%) |
数字は説明のための仮の比率です。経費の負担者が変わるだけで、同じ50%でも手元に残る割合は30〜50%の幅で動きます。
母数の「売上」そのものの定義も決めておきます。プラットフォームの手数料を差し引いた後の入金額なのか、視聴者が支払った額なのか、消費税を含むのか、源泉徴収の前の額なのか。歌い手の事務所の契約のレビューでは、一定額を超える部分を「源泉徴収前の総額で、費用を控除しない額」の50%とする設計を確認しました。このように、どの段階の金額を母数にするのかを言葉で特定しておくと、計算の食い違いを防げます。
どちらの型が正しいということはありません。大切なのは、率と母数と経費の負担を、一つの条の中で矛盾なく決めることです。率の数字は、契約書の中で最も読み違いが起きやすい箇所です。事務所では、ヒヤリングシートの回答と条文の数字を一行ずつ照合する表を作り、「甲:乙」の比の順序と、どちらの取り分を書いているのかを、確定の前に必ず照合しています。
経費の控除と明細:控除できるものを決め、見せる
事務所の所属契約書の例では、案件の遂行に直接必要かつ合理的な経費を控除できるとしたうえで、その明細を提示することを事務所の義務とし、支払は取引先からの入金が確定した日から30日以内としています。別の専属マネジメント契約書では、支払時期について、当初の案の「毎月末日締め翌月末日払い」を、取引先からの入金の時期がまちまちであるという事情から「合理的な期間内」に改め、明細への異議は支払日から30日以内に申し出ることとし、期間が過ぎれば確定したものとみなす条を置いていました。
「合理的な期間内」という書き方は柔軟ですが、タレントから見ると支払の時期が読めません。事務所が従業員を使用し、タレントが従業員を使用しない個人である場合などには、フリーランス法の適用があり、タレントへの支払期日は、タレントが出演などの役務を提供した日を起点に60日を超えない範囲で、なるべく早い日に設定することが求められます(フリーランス法4条1項)。期日の定めがない契約では、出演などの役務を提供したその日に支払うべきものとされます(同条2項)。マネジメント契約にも適用され得ることを前提に、具体的な期日を書いておく方が安全です。
ここで注意したいのが、「取引先からの入金確定日から30日以内」という書き方との関係です。事務所が取引先から出演などの仕事を受け、それをタレントに委託する形であれば、フリーランス法の再委託の特例を使える可能性があります。タレントに再委託であることや、取引先(元委託者)の名称、取引先から事務所への対価の支払期日などを明示したときに限って、タレントへの支払期日を、その対価の支払期日から数えて30日の期間内に置ける、という特例です(フリーランス法4条3項)。この明示をしていないのに入金基準で支払期日を定めると、役務の提供を受けた日から60日という原則に戻って判断されます。取引先からの入金が遅れる業界の実情に合わせたいなら、個別案件の条件を示す段階で、再委託であることと元の支払期日を書面又は電磁的方法で示す運用まで含めて設計します。
明細については、芸能分野の指針が、歩合制で報酬を支払う場合には、①業務ごと(事務所と取引先との契約ごと)の契約金額の総額、②そのうち事務所と実演家それぞれへの分配額又は比率、③実演家への報酬額から差し引く費用がある場合はその項目と金額を明示すべきだとしています。毎月の支払総額だけを伝える運用は、問題を誘発する原因となり得る行動例として挙げられています。
明細に載せる項目(芸能分野の指針の3項目を契約に落とした例)
| 項目 | 契約書での書き方 | 書かないと起きること |
|---|---|---|
| 案件ごとの契約金額の総額 | 取引先との契約ごとに、案件名・実施日・取引金額を記載する | 事務所の取り分が何%なのか、タレントが確かめられない |
| 分配額又は比率 | 事務所とタレントそれぞれの分配額又は比率を記載する | 比率の変更に気づかない、計算の誤りを見つけられない |
| 控除した費用 | 報酬から差し引いた費用の項目と金額を記載する | どの経費が引かれたのかが分からず、不信が積み上がる |
明細への異議の期間を定め、期間が過ぎれば確定したものとみなす条は、計算をいつまでも蒸し返されないために事務所にとって有用です。ただし、その前提は、異議を述べるのに足りる明細が渡されていることです。支払総額しか示さないまま「30日で確定」とするのでは、タレントは何に異議を述べればよいか分かりません。確定の条を置くなら、上の3項目を載せた明細の交付とセットにします。少額の分配が続く場合は、累積額が一定額を超えた月にまとめて支払う、振込手数料の負担者を決める、といった事務の条もあわせて置いておくと、支払のたびの細かな行き違いを防げます。
声優VTuberのプロジェクトの業務委託契約書をレビューした報告書では、分配の透明性を高める手段として、年1回程度、演者が合理的な範囲で計算の根拠の確認を求めることができる条を置くよう勧めました。また、分配の割合を変える判断を「運営が判断する」に委ねている条には、変更の基準を客観的にするよう求めています。
自己営業の案件と、収益の種類ごとの分配率
分配の条でもう一つ決めておくのが、タレントが自分で獲得した案件の扱いです。原則としてタレントが全額を取得し、事務所が実質的に関与した場合に限り、上限を決めてマネジメント料を定めるという改訂例は、専属マネジメント契約のページで紹介しました。
収益の種類が多い事務所では、種類ごとに分配率を変える設計が使われています。VTuberを含む配信プロダクションの所属契約書では、次のように区分していました。
収益の種類ごとに率を変えた例(配信プロダクションの所属契約書)
| 収益の種類 | タレントへの分配 | 設計の考え方 |
|---|---|---|
| チェキ(インスタント写真)の販売 | 1枚の販売価格の50% | 撮影の手配・会場・物販の運営を事務所が担う |
| 撮影会の売上 | 売上の70% | タレント本人の稼働が中心 |
| 配信の収益 | 登録者数に応じて50%・60%・70%の段階 | 成長に応じてタレントの取り分を増やす |
| メンバーシップ(有料会員) | 100% | ファンとの直接の関係から生じる収益 |
| グッズの利益 | 利益の50〜70% | 製造・在庫のリスクを事務所が負う |
同じ契約書では、分配率を変えるときは理由を説明し、1か月以上前に予告し、協議して合意することを定めていました。
このほか、事務所の書類には、税引前・経費控除前の総収益を事務所70%・タレント30%とする業務提携契約、タレント70%・事務所30%とする専属マネジメント契約、著作物の貸出による利益の50%・販売による利益の60%をアーティストに支払う規約などがありました。率の水準は、事務所が負う費用とリスク、タレントの稼働の割合によって大きく変わります。数字の比較よりも、何に率を掛け、何を差し引くのかが書かれているかを見てください。芸能分野の指針は、参考となる行動例として、報酬の分配比率や支払方法を、契約期間にかかわらず基本的に毎年タレントと協議している例を紹介しています。率を契約書に書いたうえで、見直しの機会を年に一度設けておくと、活動の広がりに合わせて率を調整しやすくなります。撮影会・チェキ・写真集の対価の計算は起用・出演・PR案件のページでも扱います。音楽の配信収益の分け方は音楽・原盤のページで扱います。
二次使用料・契約金・SNSやファンクラブの収益を、対象から漏らさない
分配の対象を「出演料」や「売上」とだけ書くと、出演の対価以外に生じる収益が、分配の対象に入るのかどうかが分からなくなります。芸能分野の指針は、報酬の条件に、二次使用料、SNSやファンクラブの運営、グッズ販売による収益などの配分を含めるよう求め、放送番組の二次使用料の扱いを契約に定めず実演家に分配しないことを、問題となり得る行動例に挙げています。参考となる例としては、権利の二次利用で発生する二次使用料も実演に対する報酬と同じ比率で支払うこと、レコード会社などから支払われる契約金は実演家を拘束する対価であるとして、広告費・レッスン料などの費用を差し引いたうえで実演家に分配することが紹介されています。
- 出演料・実演の対価(イベント・撮影・配信の出演など)
- 番組や作品の二次利用による使用料、楽曲の配信による収益
- SNSの広告収益、メンバーシップ(有料会員)、投げ銭・ギフト
- ファンクラブの会費、撮影会・チェキ・グッズの売上
- 企業案件の報酬、契約金・専属料
この一覧のように収益の種類を列挙し、種類ごとに「分配の対象か」「率は何%か」「控除する経費は何か」を別表にまとめておくと、読み違いが起きにくくなります。ある業務提携契約書のように、ファン課金の収入、投げ銭、ギフトを収益に含めると明記した例もあります。一覧にない新しい種類の収益が生じたときは協議して決める、という一文を加えておけば、新しいサービスが出てきたときの空白も埋められます。
分配率の変更と、支払の留保
分配率を事務所が判断で変えられる、という条は珍しくありません。芸能分野の指針は、契約更新において実演家と交渉することなく一方的に報酬額を決定することを、問題となり得る行動例に挙げ、フリーランス法の適用がある場合には、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定める「買いたたき」(フリーランス法5条1項4号)に当たる可能性があるとしています。分配率の変更は、理由の説明、相当の予告期間、協議と合意の三つを条文に置くのが基本です。
YouTubeチャンネルの共同運営の契約では、割合の変動に上限(演者から見れば下限)を置き、その理由として、変動に歯止めのない条項は、それ自体の効力を否定されかねないことを依頼者に説明しました。変動の幅を決めておくことは、事務所にとっても条項を守る手段になります。
支払の留保についても書き方が分かれます。「その他甲が成果報酬の対象とすることが適当でないと合理的に判断したとき」のような包括的な事由で発生済みの報酬まで支払わない、正当な理由がある場合に支払を留保又は減額できる、といった書き方も見られますが、どのような場合に支払われないのかが受け取る側から読み取れません。ライバー事務所の改訂版では、法令上控除が義務付けられる税金など又はライバーが事前に同意した手数料・経費を除き報酬から控除してはならないとし、活動の一時停止と直接関係のない確定済みの報酬の支払を不当に留保してはならない、と定めました。
書き換えの方向 報酬からの控除と留保
控除
控除できるものを限定列挙にすると、明細の項目と一致させやすく、芸能分野の指針がいう「契約上規定していなかった経費」の控除を防げます。
留保
疑いの段階で報酬全体を止めると、フリーランス法の減額(5条1項2号)の問題にもなり得ます。留保は、違反と直接関係する範囲に限ります。
インボイスと消費税:一方的に差し引く書き方にしない
タレントやライバーには、消費税の免税事業者で、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録をしていない方が少なくありません。契約書には、登録していないタレントへの報酬から消費税相当額を控除できる、とする条が置かれることがあります。これに対し、立ち上げ期の事務所への提案書では、未登録だけを理由に消費税相当額を一方的に払わない扱いは、フリーランス法5条の減額や買いたたきの問題になり得ると整理しました。
フリーランス法5条1項は、1か月以上続く業務委託(期間は政令で指定。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令1条)で、タレントの側に責任がないのに報酬を減らすこと(2号)と、同種の給付に通常支払われる対価より著しく低い報酬を不当に定めること(4号)を、事務所に禁じています。すでに合意した報酬から、支払の段階で消費税相当額を差し引けば、減額に当たるおそれがあります。登録の有無を報酬に反映させたいのであれば、支払時に差し引くのではなく、契約の締結時や更新時に、報酬の額を税込とするか税抜とするか、登録の有無で単価をどう扱うかを協議して合意し、その結果を契約書に書くのが筋です。
報酬の額と消費税(改訂の方向を示した例)
1本契約に定める報酬の額は、消費税及び地方消費税を含む額とする。
2乙の適格請求書発行事業者の登録の有無その他の事情により報酬の額を見直す必要が生じたときは、甲及び乙は、次回の更新時又は双方が合意する時期に協議し、合意した額を書面又は電磁的方法により確認する。
3甲は、前項の合意によらずに、乙の登録の有無を理由として、支払の際に報酬の額から金銭を差し引かない。
税込・税抜のどちらで定めるかは、事務所の経理の方法とあわせて決めます。
報酬分配で起きがちなこと
よくあるご質問
「売上の50%」と書いてあれば、半分もらえるのではないのですか?
母数が売上で、配信機材や通信費などの経費をタレント側だけが負担するなら、実際の利益で見た取り分は50%を下回ります。母数をグロス(総額)にするかネット(経費控除後)にするか、控除する経費は何かを、率と同じ条で確認してください。
事務所は、どんな経費でも報酬から差し引けますか?
契約で定めた経費に限るべきです。芸能分野の指針は、契約上規定していなかった経費を請求し又は控除するときは、十分に説明し、協議のうえ合意した場合にだけ行うべきだとしています。改訂例では、法令上の税金等とタレントが事前に同意した手数料・経費以外は控除しない、と限定しました。
報酬の明細は、見せてもらえるものですか?
契約に書いておくべき事項です。芸能分野の指針は、歩合制の場合に、案件ごとの契約金額の総額、事務所と実演家の分配額又は比率、差し引く費用の項目と金額を明示すべきだとしています。年1回程度、計算の根拠の確認を求められる条を置く例もあります。
分配率は、事務所が自由に変えられますか?
契約に事務所が判断で変えられると書いてあっても、一方的な変更は問題になり得ます。芸能分野の指針は、交渉せずに一方的に報酬額を決めることを問題となり得る行動例に挙げています。理由の説明、1か月以上前などの予告、協議と合意を条文に置くのが基本です。
インボイスに登録していないと、消費税分を引かれますか?
すでに合意した報酬から支払の段階で消費税相当額を差し引くと、フリーランス法の適用がある場合には報酬の減額(5条1項2号)に当たるおそれがあります。登録の有無を反映させるなら、更新時などに協議して報酬の額を合意し直し、その結果を契約書に書く方法をとります。
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