このページの要点
- 未成年者の契約は法定代理人の同意が必要で、同意がなければ取り消せる(民法5条)。同意を効力発生の条件として書く。
- 父母の双方が親権者なら双方の同意を確認し、出演の契約では本人の同意もそろえる(民法824条)。
- 芸能・音楽の練習生のレッスンは特定継続的役務の7役務に当たらない。返金のルールは任意の制度として書き分ける。
- 受講料でまかなう費用と事務所の投資を書き分け、育成費の精算は実費と記録に基づかせる。
結論:未成年者との契約は法定代理人の同意を「効力の条件」にし、練習生の契約は講座と所属の二段に分ける
芸能の仕事は、10代から始まることが珍しくありません。18歳未満の未成年者(民法4条により、年齢18歳で成年となります)と契約するときは、法定代理人(通常は親権者である父母)の同意を得る必要があり、同意を欠く契約は後から取り消される可能性があります(民法5条1項・2項)。取り消されると、契約は初めから無効だったものとみなされ、事務所が育成のために投じた費用や、出演の予定がすべて宙に浮きます。そのため、法定代理人の同意を、契約が効力を持つための条件として契約書に組み込むことが、未成年者との契約の第一の要点です。
もう一つの論点が、練習生の契約です。デビューを目指してレッスンを受ける練習生の段階と、所属タレントとして活動する段階とでは、お金の流れが逆になります。練習生は事務所に受講料を払う側、所属タレントは事務所から報酬を受け取る側です。この二つを一つの契約書に混ぜると、受講料の返金の問題と、報酬の分配の問題が絡み合ってしまいます。事務所が作成した練習生の契約書では、講座型の練習生契約と、デビュー後の専属契約を別の書面にする二段構成をとりました。
このページでは、法定代理人の同意の取り方、未成年者に特有の条項、練習生契約の組み立て、所属への切替え、育成費の精算、配信で活動する未成年者の契約を順に見ていきます。分配や期間の一般的な書き方は報酬分配のページと契約期間・解除のページをご覧ください。
法定代理人の同意の取り方
声優VTuberのプロジェクトの業務委託契約書のレビューでは、演者が成年であることの表明も、親権者の同意の手当てもないことを指摘し、未成年の演者と契約した場合には民法5条により取り消され得る、と説明しました。立ち上げ期のタレント事務所に向けた提案書では、親権者の同意書の欄を設けること、報酬の支払先と重要な事項の通知先にも親権者を含めることを提案しています。
芸能プロダクションのタレント専属契約書では、「乙が未成年の場合、本契約は乙の法定代理人が同意し、かつ甲がそれを知った時点から効力を生ずる」と定め、法定代理人の欄に、親権者を代表して同意すること、本人確認書類の写しの取得に同意することを記載する形にしていました。同意を効力発生の条件にしておけば、同意がないまま活動が始まることを、契約の仕組みとして防げます。
未成年者との契約の効力(設計の例)
1乙が未成年者である場合、本契約は、乙の法定代理人が本契約に同意し、甲がその同意を確認した時に効力を生ずる。
2乙の親権者が父母の双方であるときは、甲は、父母の双方の同意を確認する。一方の親権者が他方の同意を得て署名する場合は、その旨を記載した書面又は電磁的記録を受領する。
3甲は、乙への報酬の支払先、重要な事項の通知先及び契約内容の変更の協議の相手方に、乙の法定代理人を含める。
4乙が成年に達したときは、甲は、本契約の内容を乙に改めて説明し、乙の意向を確認する。
第2項は、父母の婚姻中はその双方が親権者となる(民法818条2項)ことを踏まえた書き方です。
父母が離婚している場合も、注意が必要です。離婚のときに父母の双方を親権者と定めることもできるため(民法819条1項・2項)、離婚しているから親権者は一方だけ、とは限りません。親権は父母が共同して行うのが原則で(民法824条の2第1項)、監護・教育に関する日常の行為は一方が単独でできるとされていますが(同条2項)、専属契約のように何年にもわたって子の活動を拘束し得る契約への同意は、日常の行為とはいえないと考えられます。契約の前に、誰が親権者なのかを確認し、双方が親権者であれば双方の同意を得ておくのが安全です。
なお、法定代理人から一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を持ちます(民法6条1項)。ただ、芸能活動について営業の許可が与えられているかどうかを、事務所の側から確かめるのは容易ではありません。営業の許可があることを前提にせず、契約ごとに法定代理人の同意を確認する方が確実です。
電子契約で結ぶ場合も、考え方は同じです。練習生の契約書を電子契約用・紙の契約用・電子署名用の3つの版で用意した事務所の例のように、契約の方法を複数用意するなら、どの方法でも法定代理人の同意が確認できるようにしておきます。電子署名なら法定代理人自身の署名を求める、メールでの同意なら法定代理人のアドレスから同意の返信を受ける、といった手順を決めておくと、後から同意の有無を争われにくくなります。
親が子を代理して契約を結ぶ場合にも、注意があります。親権を行う者は子の財産に関する法律行為について子を代表しますが、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければなりません(民法824条)。出演の契約は、まさに子が実演をする債務を生じさせる契約です。親だけが署名する形ではなく、本人にも契約内容を説明し、本人の署名と法定代理人の同意の両方をそろえる形にしておくのが確実です。
改訂の例 未成年者の同意の手当て
同意の確認
同意がないまま契約すると、後から取り消されるおそれがあります。同意を効力の条件にしておけば、同意の確認を契約の手続の中に組み込めます。
未成年者との契約に特有の条項と、説明の手順
芸能分野の指針は、未成年者が契約するときは法定代理人の同意が必要で、同意のない契約は原則として取り消すことができる(民法5条)ことに留意が必要だと注で述べたうえで、実演家が若年層の場合には、若年であることによる特段の配慮が必要だとしています。参考となる行動例として、未成年の実演家との契約では必ず親権者に同席してもらい、その場では署名させず、初回は契約期間を含む契約内容の説明にとどめて契約書案を持ち帰ってもらい、十分に理解・納得したうえで署名したものを提出してもらう例が紹介されています。
ヒヤリングの問いと理由 未成年のタレントとの契約
報酬を、本人の口座に支払うか、法定代理人の口座に支払うか。
提案書では、報酬の支払先にも親権者を含めることを提案しました。誰の口座に入れるかを契約で決めておくと、家族の間の行き違いを防げます。
学校との両立のため、活動できない時期や時間帯をどう扱うか。
活動の時期は本人と法定代理人の意向を確認して決める、という手順を置きます。試験の時期などの予定も、あらかじめ共有してもらいます。
深夜に及ぶ撮影や、泊まりがけの仕事をどう扱うか。
事務所所属の演者の同意書では、深夜の撮影は法定代理人の同意がある場合に限ることを確認する項を置いていました。
成年に達したときに、契約をどう扱うか。
成年に達した時点で本人に改めて説明し、意向を確認する手順を置くと、本人が自分の意思で契約を続ける形に移れます。
そもそも未成年のタレントの所属を予定しているか。
立ち上げ期の事務所のヒヤリングでも確かめた問いです。予定しているなら、親権者の同意書を別紙として用意し、署名欄と通知先の条をひな形の段階から組み込みます。
指針は、業務の強制についても、若年層の場合は事務所との力関係から業務の強制が起きやすいと考えられるとして、特に留意が必要だとしています。未成年のタレントは、事務所の大人から勧められた仕事を断ることが難しいものです。取引先から依頼された業務の内容を事前に本人と法定代理人に示し、意向を確認する手順を契約に書いておくことは、未成年者との契約では特に意味があります(起用・出演・PR案件のページ)。
ライバー事務所の改訂版でも、未成年のライバーについて法定代理人の同意を表明保証の対象とし、署名欄に法定代理人の欄を設けました。未成年者が自分の年齢を偽って契約した場合の扱いも問題になりますが、事務所の側で本人確認書類を確認する手順を置いておけば、そもそも誤って契約する事態を減らせます。
練習生契約の組み立て:講座と専属を分ける
音楽・芸能の練習生を育成する事務所の練習生契約書は、電子契約用、紙の契約用、電子署名用の3つの版があり、いずれも講座型の構成でした。受講料、講座の期間、講座の内容を定め、これとは別に、デビュー後の専属契約を別の書面で結ぶ二段構成です。講座型の練習生契約には、事業者名、役務の内容、支払方法、提供期間、契約の解除、途中でやめたときの精算の上限といった欄が並んでいました。
ここで注意したいのは、特定商取引法の「特定継続的役務提供」との関係です。法定書面・クーリング・オフ・中途解約の際の請求額の上限といった規制の対象になる役務は、政令で指定された7つ、すなわちエステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスだけです。芸能や音楽の練習生のレッスンは、この7つのいずれにも当たらないため、法定の特定継続的役務提供にはなりません。練習生の契約に同じような解除や返金のルールを置くこと自体はよいのですが、その場合は、法律上の制度ではなく事務所が任意に定めた制度であることが分かるように書き分ける必要があります。
任意の制度として解約と返金のルールを置くなら、途中でやめたときに、受講していない回数分の受講料を返すのか、すでに支払った月の分は返さないのか、教材や衣装などの実費をどう扱うのかを、計算の方法まで書いておきます。練習生は未成年であることが多く、受講料を実際に支払うのは法定代理人であることがほとんどです。返金の計算方法が契約書から読み取れれば、法定代理人も安心して申し込めますし、やめる場面での行き違いも防げます。
二段構成の練習生契約
練習生契約(講座型)
- 練習生が事務所に受講料を支払う
- 講座の期間・内容・回数を定める
- 途中でやめたときの返金のルールを決める
- 練習中の音源・SNSの扱いを定める
専属契約(デビュー後)
- 事務所がタレントに報酬を支払う
- 専属の範囲・分配・期間を定める
- 練習生の期間の権利の扱いを引き継ぐ
- 法定代理人の同意を改めて確認する
二つを一本にすると、受講料の返金と報酬の分配が絡み合い、どちらの問題として扱うのかが分からなくなります。
練習生契約書には、講座に関連するSNSのアカウントや音源の権利は事務所に帰属し、練習生が希望する場合は事務所が練習生の楽曲を買い取ることができる、とする条もありました。練習生の段階で作った楽曲や音源、開設したアカウントは、デビュー後の活動に直結します。練習生契約で権利を事務所に置くなら、デビューしなかった場合や練習生をやめた場合に、楽曲・音源・アカウントがどうなるのかを、同じ条で決めておかなければなりません(音楽・原盤のページ)。
練習生から所属タレントへの切替え
二段構成をとると、練習生から所属タレントに切り替わる時点の扱いを決めておく必要があります。切替えのときに確認しておきたいのは、次のような点です。
- 練習生契約の終了と、専属契約の開始の日。受講料の支払が残っている場合の精算の方法。
- 練習生の期間に作った楽曲・音源・映像・アカウントを、専属契約の対象にするか。対象にするなら、分配や権利の扱いを専属契約の条で決め直す。
- 練習生の期間に事務所が負担した費用(受講料でまかなえない部分)を、専属契約の分配や育成費の精算でどう扱うか。
- 専属契約の期間の起算点。練習生の期間を通算するのか、専属契約の締結日からとするのか。
- 未成年者であれば、専属契約について改めて法定代理人の同意を得ること。
切替えのときには、専属契約の内容を、練習生契約とは別に改めて説明することも大切です。練習生の間は受講料を払う側だった本人と法定代理人にとって、報酬の分配、専属の範囲、契約期間といった専属契約の条件は、初めて目にするものです。芸能分野の指針が求める、契約の案を示してから締結までに検討の期間を設けることは、この切替えの場面でも同じように当てはまります。
特に3つ目の費用の扱いは、後の紛争に直結します。練習生の段階で受講料を受け取っておきながら、デビュー後に「育成費」として同じ費用の返還を求めるような形になると、二重の負担になります。何を受講料でまかない、何を事務所の投資とするのかを、練習生契約の段階で書き分けておくことが大切です。
育成費の精算:実費と記録
立ち上げ期の事務所のヒヤリングシートでは、固定の違約金は置けないが、現に支出した費用の範囲で精算する条は置ける、と注記し、育成費は領収書や記録を残す運用とセットにするよう求めました。ライバー事務所の改訂版では、契約が終わった後に育成費用の返還を請求しないと明記しています。VTuberを含む配信プロダクションの所属契約書のように、締結後6か月以内の自己都合による解除の違約金に、VTuberのモデルや衣装の制作費を含める例もありました。
芸能分野の指針は、育成等の費用には、レッスンの費用のような技能を直接高める費用だけでなく、合理的な範囲で、売り出すための宣伝費なども含まれるとしつつ、デビューまでに生じたレッスン費用や交通費などの経費を十分な協議をせずに実演家に負担させることを、問題となり得る行動例に挙げています。練習生や若いタレントとの契約では、費用の負担について、契約の時点で十分に説明し、何をどちらが負担するのかを書面に残しておくことが、指針の考え方にそった形です。違約金や育成費の精算の条の書き方は移籍制限・違約金のページで詳しく扱っています。
締結後6か月以内の自己都合による解除に、モデルや衣装の制作費を含む違約金を定める型は、事務所が活動の開始のために先に支出した費用を回収するという点では理由のある設計です。ただ、違約金という形で定額にすると、実際の制作費より多い額を求めることにもなり得ます。制作費の実額を上限とし、在籍した月数に応じて減らしていく形にすれば、同じ目的を、実費の精算として説明できる形で達成できます。未成年のタレントの場合は、その費用を最終的に負担するのが法定代理人になることも多いため、契約の時点で、どのような場合にいくらまでの負担が生じ得るのかを、法定代理人にも説明しておくことが欠かせません。
育成にかかる費用の書き分け(設計の例)
| 費用 | 負担者の決め方 | 記録しておくこと |
|---|---|---|
| レッスンの費用 | 練習生の期間は受講料に含める。所属後は事務所の負担とし、分配で回収する | レッスンの日時・講師・費用 |
| 宣材写真・衣装・モデルの制作費 | 事務所の負担とするか、タレントの負担とするかを契約時に決める | 見積書・請求書・領収書 |
| 交通費・宿泊費 | 案件に必要なものは案件の経費とし、レッスンのための移動は別に決める | 移動の目的と金額 |
| 宣伝費 | 事務所の負担。退所時の精算の対象にするなら算定方法を契約に書く | 宣伝の内容と期間 |
配信・SNSで活動する未成年者の契約
ライブ配信やSNSで活動する未成年者の場合、事務所との契約だけでなく、プラットフォームの規約にも年齢の条件があることに注意が必要です。ライバー事務所の改訂版では、プラットフォームが未成年者の利用や収益化を禁止している場合はライバー活動を行わない、と定めました。プラットフォームの規約に反して活動すると、アカウントの停止や収益の取消しにつながり、事務所とライバーの双方が損失を被ります(ライバー事務所の契約のページ)。
また、配信やSNSでは、本人の顔や声、学校の制服、自宅の様子などから、本人の身元が特定されるおそれがあります。所属の契約やガイドラインで、身元が特定される情報を配信に映さないこと、事務所がそのための助言を行うことを定めておくのは、未成年者を守るために事務所ができる手当ての一つです。VTuberの演者の身元を守る秘密保持の考え方は、VTuberのページで扱っています。
未成年・練習生の契約で起きがちなこと
よくあるご質問
未成年者と契約するとき、誰の署名が必要ですか?
本人の署名に加えて、法定代理人(通常は親権者である父母)の同意が必要です(民法5条1項)。父母の婚姻中はその双方が親権者となるため、双方の同意を確認します。親が子を代理して出演の契約を結ぶ場合も、子の行為を目的とする債務を生ずるため本人の同意が必要です(民法824条ただし書)。
練習生の契約に、クーリング・オフはありますか?
法律上のクーリング・オフはありません。特定商取引法で特定継続的役務に指定されているのは、エステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚相手紹介サービスの7つで、芸能や音楽のレッスンは入っていないからです。事務所が任意に解約や返金のルールを定めることはでき、その場合は任意の制度であることを書き分けます。
練習生から所属タレントになるとき、契約はどう切り替えますか?
練習生契約(講座型)を終了し、専属契約を新たに結ぶ二段構成が整理しやすい形です。受講料の精算、練習生の期間に作った楽曲・音源・アカウントの扱い、事務所が負担した費用の扱い、専属契約の期間の起算点、法定代理人の同意の再確認を決めておきます。
育成費を返せと言われたら、どうなりますか?
契約に精算の定めがあり、その範囲が現に支出した費用に限られているかを確認します。芸能分野の指針は、デビューまでのレッスン費用や交通費などを十分な協議なく負担させることを問題となり得る例に挙げています。受講料でまかなわれていた費用を重ねて請求することも、二重の負担になります。
未成年のタレントの報酬は、誰の口座に支払われますか?
契約で決めておくべき事項です。事務所の提案書では、報酬の支払先と重要な事項の通知先に親権者を含めることを提案しました。本人の口座にするか法定代理人の口座にするかを契約書に書いておくと、家族の間の行き違いを防げます。
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