タレントやライバー、VTuberの契約は、所属するときには楽しみのほうが大きく、条文を細かく読む人は多くありません。けれども、辞めるとき、報酬で行き違ったとき、炎上したとき、キャラクターや芸名やアカウントの扱いで揉めたときに、頼りになるのは契約書だけです。このガイドでは、アトラス行政書士法人がこれまで作成・レビューしてきた芸能プロダクションの所属契約書、ライバー事務所の契約書、VTuberの演者の業務委託契約書・秘密保持契約書、歌唱や楽曲の契約書、イメージキャラクター契約書などの実例と、令和7年9月に策定された芸能分野の取引の適正化に関する指針、条文の一次確認をもとに、専属の範囲、報酬分配、アカウントと芸名、肖像と実演家の権利、移籍と違約金、未成年者と練習生、退所の後の処理までを、テーマごとに詳しく整理しています。事務所を立ち上げる方、所属を考えているタレント・ライバー・演者の方、案件でタレントを起用する方のどなたにも使える内容です。

芸能事務所・ライバー事務所を立ち上げる方

スタンドに立てた撮影用のLEDライト

専属の範囲と、事務所の役割を条文にする

マネジメント契約は、何を事務所経由にするか、事務所に何の権限を渡すか、対価をどう分けるかの三つで組み立てます。専属の範囲を「芸能活動の一切」で済ませず、事務所経由・届出・自由に分けて書くのが基本です。

令和7年9月に策定された芸能分野の指針は、動画配信者も実演家に含め、契約の書面化と説明、退所後の活動制限を原則置かないことなどを求めています。

報酬分配とお金の流れを整えたい方

アームに取り付けた配信用のマイクとモニター

母数・経費・支払時期・明細を一つの条で決める

「売上の何%」だけの分配の条は、母数が売上か利益か、何を差し引くのかで揉めます。グロスかネットかを決め、控除できる経費を列挙し、明細に載せる項目を書きます。

ライバー事務所では、配信報酬がプラットフォームから直接ライバーに入る仕組みが多く、事務所の代理店報酬との区別を契約に書くことが出発点です。

VTuberを運営する方・演者の方

ピンクと青の照明に照らされたヘッドセットとスマートフォン

キャラクター・演者・中の人の情報を分けて書く

キャラクターの権利、演者の実演、演者を特定できる情報、モデル制作者の権利を、別々の条で書きます。退所後に同じキャラクターで活動できるか、モデルを買い取れるかも、契約で決めておけます。

中の人の秘密保持は、外形的な操作で義務を書き、漏えいには賠償額の予定を置くと、いざというときに使える条になります。

肖像・楽曲の権利を整理したい方

ポップガードを付けた録音用のコンデンサーマイク

譲渡ではなく許諾で、範囲と終わりを決める

パブリシティ権は人格権に由来する権利とされ、事務所への譲渡という構成は判例の立場と整合しません。期間中の許諾と窓口の一本化で組み、宣伝と商品化を分けて書きます。

音楽では、詞と曲の著作権、歌唱の実演家の権利、原盤権を分け、終了後の配信の継続と取り戻しの条件まで決めておきます。

退所・移籍のルールを決めたい方

観客で埋まった大きなホールとステージ

期間中は明確に、出口は開けておく

芸能分野の指針は、退所後の競業避止義務等を原則として契約に規定しないことを求めています。期間中の専属を明確にし、終了後は秘密保持と特定の紹介案件の保護にとどめる設計が基本です。

退所の手続、登録解除の期限、公開済みの動画と所属の表示の扱いも、契約の段階で決めておけます。

未成年・練習生と契約する方

壁際に椅子が並ぶ広い板張りの部屋(白黒写真)

法定代理人の同意と、練習生契約の二段構成

未成年者との契約は、法定代理人の同意を効力の条件にし、父母の双方が親権者なら双方の同意を確認します。出演の契約では本人の同意もそろえます。

練習生の契約は、受講料を払う講座型の契約と、報酬を受け取る専属契約を分けると、返金と分配の問題が絡み合いません。

このガイドの解説ページ

よくあるご質問

タレントやライバーとの契約は、雇用契約と業務委託契約のどちらにすべきですか?

多くの事務所は業務委託として組んでいますが、名前だけでは決まりません。配信の日時や頻度をタレントが自分で決められること、案件を断れること、断っても不利益に扱わないことを、条文と運用の両方に置くことが大切です。芸能分野の指針も、実演家と事務所は独立した事業者で、事務所は指揮命令をするものではないとしています。

退所した後に別の事務所に入らないよう、契約で制限できますか?

芸能分野の指針は、退所後の競業避止義務等を原則として契約に規定しないこと、既存の条項は削除することを求めています。専属マネジメント契約の終了後に実演を目的とする一切の契約を禁じた規定を公序良俗に反し無効とした裁判例もあります。期間中の専属を明確にし、終了後は秘密保持などにとどめるのが基本です。

事務所を辞めたら、SNSアカウントや芸名はどうなりますか?

契約の書き方しだいです。本人が管理・利用の主体とする設計なら本人に残り、事務所が作成・管理する設計なら退所時の手順に従います。芸名を事務所に帰属させるには明示の合意と説明が前提で、芸能分野の指針は、合理的な理由がない限り退所後の芸名の使用を制限しないことを求めています。

VTuberのキャラクターは、辞めた後も使えますか?

持ち込みのキャラクターなら本人に帰属させ、期間中の利用を事務所に許諾する形が基本です。事務所が企画したキャラクターは事務所に帰属するのが通常で、退所後の利用は買い取りや利用許諾の条によります。契約で、終了後に同じキャラクターで活動できるかどうかを明記しておくことが大切です。

未成年のタレントと契約するとき、注意することは何ですか?

法定代理人の同意が必要で、同意のない契約は取り消すことができます(民法5条)。同意を契約の効力の条件とし、父母の双方が親権者なら双方の同意を確認し、本人にも内容を説明します。芸能分野の指針は、親権者に同席してもらい、その場で署名させず契約書案を持ち帰ってもらう例を紹介しています。

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監修:アトラス行政書士法人(代表社員 荒木素子・特定行政書士) 最終確認日:2026年10月15日