アカウント・芸名・SNSの帰属と管理権限

アカウントと芸名は活動の基盤です。退所のときに「置いていけ」「使うな」とならないよう、契約の段階で決めます。

トップページ › アカウント・芸名・SNSの帰属と管理権限
プラットフォームの規約上はライバー本人が登録者なのに、契約書だけ「事務所に帰属」と書いても、名義は動きません。

このページの要点

  • アカウントは「所有」ではなく「誰が管理・利用の主体か」で書き、正式な管理機能以外でパスワードを求めない。
  • 事務所帰属型では、名義を変えられない場合の削除・引継ぎと、退所後は新しいアカウントで活動することを書く。
  • 芸名を事務所に帰属させるなら明示の合意と説明が前提。退所後の使用は合理的な理由がない限り制限しない(芸能分野の指針)。
  • 締結時に、活動名・表示名・ユーザーID・対象アカウントを署名欄で特定する。

結論:アカウントは「誰が管理し利用する主体か」で書き、芸名は終了後の扱いまで決める

タレントやライバーにとって、SNSや配信のアカウントと芸名は、活動の基盤そのものです。契約書でこの扱いを決めていないと、退所のときに「アカウントを置いていけ」「芸名を使うな」という争いになります。事務所の書類では、アカウントを本人に残す設計と、事務所に帰属させる設計の両方がありました。どちらを選ぶにしても、①対象のアカウントを特定し、②期間中の管理権限(パスワードを誰が持つか)を決め、③契約終了時の扱いを書くことが共通の要点です。

芸名については、芸能分野の指針が、芸名やグループ名の権利を事務所に帰属させる場合には、あらかじめ契約上に明確に規定したうえで実演家に十分に説明し協議すること、合理的な理由がない限り退所後の芸名の使用を制限しないこと、制限する場合も合理的な範囲の使用料の支払など代わりの手段を含めて合理的な方法とすることを、事務所が採るべき行動として挙げています。

このページでは、アカウントの帰属の書き方、事務所帰属型の注意点、ログイン情報の開示、芸名と商標、締結時の特定の方法を順に見ていきます。VTuberのキャラクター(いわゆるガワ)の権利はVTuberのページで扱います。

「アカウントは本人に帰属する」を、より精密に書く

ライバー事務所の既存の契約書には、「対象アカウントは乙本人に帰属する」と断定する条がありました。逐条コメントでは、プラットフォーム上のアカウントは、プラットフォームの規約に基づいて利用できる地位としての性質を持つもので、物のように所有できるものではないと指摘し、「所有権」ではなく「乙が管理及び利用の主体となる」と規定する方が精密だと提案しました。

事務所が全面的に改訂した契約書では、この考え方に沿って、次のように定めています。

アカウントと芸名(改訂例の要旨)

1乙は、対象アカウントの管理及び利用の主体であり、芸名、表示名、ユーザーID及び対象アカウントのフォロワーとの関係は、本契約により甲又は一次代理店に移転しない。

2甲は、プラットフォームが定める正式なエージェンシー管理機能を用いる場合を除き、乙に対象アカウントのパスワードの開示を求めない。

3乙は、本契約の終了後も、芸名等を引き続き使用することができる。ただし、甲が創作した芸名等であって、甲に帰属する旨を甲乙が明示的に合意したものは、この限りでない。

第3項のただし書は、芸名を事務所に帰属させる場合でも、あらかじめ明示の合意を要するという芸能分野の指針の考え方とそろえた書き方です。

第2項は、事務所がパスワードを預かる運用を原則として認めない条です。パスワードを事務所が持っていると、退所の際に事務所がログインして投稿を消したり、名義を変えたりできてしまいますし、ログインの記録から本人以外の者がアカウントを使っていることが分かれば、プラットフォームの規約違反を問われるおそれもあります。代理店向けに正式な管理機能があるプラットフォームでは、その機能を使えば足ります。

事務所に帰属させる設計の注意点

一方で、事務所がアカウントを作り、育てる設計もあります。複数のプラットフォームで活動するライブ配信事務所のライバー業務委託契約書では、業務用のアカウントは原則として事務所が作成し、一切の管理権限と知的財産的な権利は事務所に帰属すること、退所時にID・パスワード・投稿・フォロワーを移行しないことを定めていました。

この契約書は、修正版の段階で二つの項を追加しています。プラットフォームの仕様によってはアカウントの名義を変えられないことがあるため、そのときはライバーが事務所の指示に従って削除や引継ぎに協力すること、退所後に活動を続けるときは新しいアカウントを開設すること、の二つです。事務所に帰属させると書いても、プラットフォームの規約上はアカウントの登録者がライバー本人であることが多く、契約の約束だけでは名義が動かない、という実務上の壁に対応した追加です。

アカウントの帰属:二つの設計の比較

本人が管理・利用の主体

  • 本人の既存アカウントで活動するとき
  • 退所後もフォロワーとの関係が本人に残る
  • 事務所は正式な管理機能の範囲で関与する
  • 事務所が育成に投じた費用の回収は、分配や期間の設計で考える

事務所が作成・管理

  • 事務所の企画として新しく開設するとき
  • 退所時の削除・引継ぎの手順を決めておく
  • プラットフォームの規約上の名義との食い違いに注意
  • 退所後は新しいアカウントで活動することを明記する

立ち上げ期の事務所への提案書では、SNSは「事務所名義で新規開設」が最も揉めにくく、本人の既存アカウントは終了時に本人に戻る前提で書く、と整理しました。

VTuberを含む配信プロダクションの所属契約書では、新しいSNSを開設するときは事務所の書面による承認が必要とし、既存のアカウントについても事務所の指示に従う、としていました。事務所の企画として運営するアカウントならともかく、本人が個人として持っていたアカウントにまで指示が及ぶ書き方は、諾否の自由のページで見た拘束の強さの問題にもつながります。対象を「事務所の企画として開設したアカウント」に限るのが書き分けの基本です。

ログイン情報の開示と、管理権限の返還

アーティストの専属マネジメントを利用規約の形で結ぶ書式では、事務所と共同で開設したアカウントのIDとパスワードの開示をアーティストに義務付けたうえで、確認の目的で使用し投稿の削除の目的では使用しないこと、契約終了後に破棄することを定めていました。開示を求めるなら、目的を限り、使い方の禁止と終了後の破棄まで書く、という組み立てです。共同で開設したアカウントは、事務所が投稿の内容を確認する必要がある一方、アーティストにとっては自分の発信の場でもあります。確認のための閲覧と、投稿の削除や変更とを分け、後者は事務所だけではできないとしておくことで、両者の役割の線引きが明確になります。

芸能事務所の所属タレントのネット活動を支援するマーケティング会社の業務提携契約書では、支援会社の側に立って、所属タレントの既存のアカウントの管理権限を無償で付与してもらい、返還のときは支援会社が制作したコンテンツをすべて削除すること、削除できなければ返還を拒否でき、別の媒体で代替することもできることを定めました。支援会社が作ったコンテンツの扱いを返還の前に片付けておく、という支援会社の側の必要に応えた設計です。一方、タレントや事務所の側から見ると、返還の時期と条件は、契約の前に確認しておきたい点です。

アカウントの管理権限の返還:二つの立場から見た書き方

支援会社の側の書き方

  • 返還の前に、支援会社が制作したコンテンツを削除する
  • 削除できない場合は返還を拒否でき、別の媒体で代替できる
  • 支援会社のコンテンツが他者の管理下に残ることを防げる

タレント・事務所の側から求める書き方

  • 契約終了の日から一定の期間内に管理権限を返還する
  • 削除できないコンテンツは扱いを協議し、合意できないことを理由に返還を拒まない
  • 既存のアカウントという活動の基盤を確実に取り戻せる

どちらの立場で契約を作るかで、返還の条の書き方は変わります。両方の必要を満たすなら、返還の期限を決めたうえで、削除の作業を期限内に双方で協力して行う、という形が考えられます。

芸名と商標:終了後の使用を先に決める

芸名の扱いについて、立ち上げ期の事務所への提案書は、芸名の帰属、商標の出願人を誰の名義にするか、契約終了後に芸名を使い続けられるかを、あらかじめ契約に明記するよう勧めました。商標は、登録した者が指定した商品・役務について独占的に使える権利で、芸名を事務所の名義で登録していると、退所後にタレントがその芸名を使えるのかが争いになり得るためです。

芸能分野の指針は、この点について具体的な行動例を挙げています。参考となる例として、実演家の希望を踏まえて芸名を商標登録し費用を事務所が負担した場合に、登録期間の途中で実演家が退所するとき、残りの期間分の費用の一部を実演家に求めたうえで双方合意のうえ登録者を実演家に変更し、芸名を使い続けさせた例を紹介しています。参考となる例としては、ほかに、事務所に所属していた際に使っていた芸名を、退所後も制約なく自由に使えるようにしている例も挙げられています。問題となり得る例としては、契約書に芸名の扱いが何も書かれていないのに、退所時に芸名が事務所に帰属するとして使用を制限すること、相当の長期間在籍し、事務所が投資した費用の回収などができていないという事情もないのに、協議なく一方的に芸名の使用を制限すること、契約書に退所後の芸名の扱いを書かず十分な説明もしないまま、退所後に芸名を変えるよう求めることなどが挙げられています。

芸名の扱い:三つの書き方

本人に帰属

  • 本名や入所前からの芸名の基本形
  • 退所後も本人が自由に使う
  • 事務所は期間中、活動の窓口として芸名を表示する

期間中は事務所が管理

  • 事務所が考えた芸名で、育成の途中にあるとき
  • 期間中の使用・商標の管理は事務所
  • 終了時に本人が使い続けられる条件(費用の精算など)を書く

事務所に帰属

  • グループ名や、事務所の企画と一体の名前
  • 帰属の明示の合意と十分な説明が前提
  • 退所後の使用は、使用料の協議などの代わりの手段を書く

どの書き方でも、商標の出願人と費用の負担を同じ条で決めておきます。

ヒヤリングの問いと理由 芸名とアカウント

  1. 芸名は本名か、入所前から使っている名前か、事務所が考えた名前か。

    本名や入所前からの芸名は、一般に事務所に帰属するとはされていません。事務所が考えた芸名でも、帰属させるなら明示の合意が必要です。

  2. 芸名を商標登録するか。する場合、出願人は誰で、費用は誰が負担するか。

    出願人と費用の負担を決めておくと、退所時に登録名義を移すかどうか、残りの費用をどうするかを話し合う土台になります。

  3. SNSは事務所名義で新しく開設するか、本人の既存アカウントを使うか。

    どちらにするかで、退所時の扱いがまったく変わります。既存アカウントを使うなら、終了時に本人に戻る前提で書きます。

芸能分野の指針は、芸名の使用を制限する「合理的な理由」があるかどうかは個別の事情で判断されるとしつつ、事務所がグループ名を引き続き使う場合や、芸名の価値を高めるために事務所が投資した費用の回収・収益の確保が合理的な範囲でできていない場合などを、考慮される事情として挙げています。逆に、そうした事情がないのに使用を制限する場合や、回収の必要はあっても使用料などを十分に協議せずに使用を一切認めない場合は、合理的な理由がないと判断され得るとしています。契約書では、事務所が芸名の価値に投資する計画があるなら、その内容と、退所時に使用料の協議で解決する道を、あらかじめ書いておくのが整合的です。

YouTubeチャンネルの共同運営の契約では、チャンネルの名義は事務所側、演者名のブランドの商標の名義は演者、という回答があり、名義がずれたままでは終了後にどちらもブランドを自由に使えなくなりかねないため、名義と費用の負担を別途協議する条を置きました。チャンネルと芸名の名義がずれる設計は、終了の場面で必ず問題になります。

締結時に、誰のどのアカウントかを特定する

ライバー事務所の逐条コメントでは、締結の条項について、誰のどのアカウントを対象とするかが契約の基本的な特定事項である、と指摘しました。改訂版では、署名欄に、活動名、プラットフォーム上の表示名、ユーザーID、その他の対象アカウント、未成年の場合の法定代理人の欄を設けています。

  • 活動名(芸名)と、プラットフォームごとの表示名
  • ユーザーID(変更したときの連絡の方法もあわせて定める)
  • 契約の対象にするアカウントと、対象にしないアカウント(個人の私的なアカウントなど)
  • 事務所の企画として新しく開設したアカウントかどうか
  • 未成年の場合の法定代理人の氏名と同意の記録

このうち「対象にしないアカウント」を書く意味は小さくありません。家族や友人とやり取りする私的なアカウントや、芸能活動と関係のない趣味のアカウントまで、事務所の指示や投稿の確認の対象になると読める契約は、タレントの私生活に踏み込みすぎます。対象のアカウントを列挙したうえで、それ以外のアカウントには契約のアカウントに関する条が及ばないと書いておけば、事務所の関与の範囲が明確になり、タレントの側も安心して私的な発信を続けられます。

対象を特定しておけば、契約が終わったときに、どのアカウントについて何をするのかが明確になります。退所時の手続は退所・契約終了後のページで、IDの変更の連絡はライバー事務所の契約のページでも触れています。

退所時の扱いを、アカウントの種類ごとに表にしておく

事務所の書類を横に並べると、一人のタレントが関わるアカウントは、一種類ではないことが分かります。本人が以前から使っていたアカウント、事務所の企画として新しく開設したアカウント、事務所と共同で開設したアカウント、事務所の公式アカウントの中でタレントが出演する投稿、支援会社に管理権限を渡した既存のアカウント。それぞれについて、期間中の管理と終了時の扱いを分けて書いておくと、退所の場面で迷いません。

アカウントの種類ごとの書き分け

アカウント期間中の管理終了時の扱い
本人が以前から使っていたもの本人が管理・利用の主体。事務所は正式な管理機能の範囲で関与本人に残る。事務所の関与(管理機能の登録など)を解除する
事務所の企画として新規開設したもの事務所が管理。投稿の方針は協議事務所に残る。名義を変えられない場合の削除・引継ぎの手順に従う
事務所と共同で開設したものログイン情報の開示は目的を限定どちらに残すかを開設時に決める。開示された情報は破棄する
事務所の公式アカウント上の出演投稿事務所が管理過去の投稿の扱い(残す・非公開)を退所時の条で決める
支援会社に管理権限を渡した既存のもの支援会社が運用。権限の範囲を限定一定の期間内に権限を返還する。返還を条件付きにしない

公式アカウント上の過去の投稿の扱いは、退所・契約終了後のページの「公開済み動画」の考え方と共通です。

表の中で見落としやすいのは、フォロワーとの関係です。ライバー事務所の改訂版のように、フォロワーとの関係は事務所や一次代理店に移転しない、と書いておけば、事務所の企画として開設したアカウントでも、そのフォロワーに向けて本人が新しいアカウントを案内することまで禁じる趣旨ではないことが読み取れます。逆に、事務所の企画のアカウントからの誘導を制限したいなら、その範囲と期間を具体的に書く必要があります。

事務所の公式アカウントに残るタレントの出演投稿については、マネジメント契約を解除する際の覚書で、タレントが配信動画の二次利用の停止や一部の非公開を申し出ることができ、事務所が申出を受け入れたときは二次利用をしない、と定めた例があります。退所のたびに個別に交渉するより、本契約の段階で、過去の投稿を残すのか、申出があれば非公開にする余地を残すのかを決めておく方が、双方にとって予測がつきます。

アカウント・芸名で起きがちなこと

よくあるご質問

事務所を辞めたら、SNSや配信のアカウントは持っていけますか?

契約しだいです。本人が管理・利用の主体とする設計なら、退所後も本人が使い続けられます。事務所が作成・管理する設計なら、退所時の削除・引継ぎの手順と、退所後は新しいアカウントで活動することが定められているのが通常です。まず契約書で、対象のアカウントがどちらの扱いかを確認してください。

事務所にパスワードを教える必要がありますか?

改訂例では、プラットフォームの正式なエージェンシー管理機能を用いる場合を除き、事務所はパスワードの開示を求めないとしました。開示を求める契約でも、確認の目的に限り、投稿の削除には使わず、契約終了後に破棄する、と使い方を限定するのが基本です。

芸名を事務所が商標登録していたら、辞めた後は使えなくなりますか?

商標の登録名義が事務所なら、使用をめぐって争いになり得ます。芸能分野の指針は、合理的な理由がない限り退所後の芸名の使用を制限しないこと、制限する場合も使用料の支払など代わりの手段を含め合理的な方法とすることを求めています。登録名義を本人に移した例も紹介されています。

新しいSNSアカウントを作るのに、事務所の許可がいりますか?

契約に承認が必要と書かれている例があります。ただ、本人が個人として持つアカウントにまで指示が及ぶ書き方は拘束が強すぎます。承認や指示の対象を、事務所の企画として開設するアカウントに限るのが書き分けの基本です。

本名で活動しているのに、退所後は名前を使うなと言われました。

芸能分野の指針は、本名を芸名とする場合や入所前から使っていた芸名は、一般に事務所に帰属するとはされていないとし、事務所が特段の投資をしていないのに帰属するとして退所後の使用を認めない場合は独占禁止法上問題となると考えられる、としています。

あわせて読みたい、関連する別のガイド

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、活動の実態や契約の全体の内容によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた芸能プロダクションの所属契約書・専属マネジメント契約書・タレント業務委託契約書、ライバー事務所の契約書、VTuberの演者の業務委託契約書・秘密保持契約書・プライバシーポリシー、Live2Dモデルの利用規約、歌唱実演許諾契約書・楽曲の契約書、イメージキャラクター契約書、写真集の出版許諾契約書、提案書・ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針(公正取引委員会) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)

芸能・タレント・ライバー・VTuberの契約書でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

公式LINEで無料相談する
アトラス行政書士法人 公式LINEの友だち追加QRコード
  1. 公式LINEを友だち追加
  2. 「芸能・タレント・ライバー・VTuberの契約書ガイドを見た」とメッセージを送信
  3. ご相談内容を確認し、LINEでご返信します(24時間・土日祝対応)

相談無料です。料金が発生するのは、お申込みいただいた書類の作成・点検だけです。

LINEで友だち追加して無料相談する

ご依頼・納品の流れを見る