音楽:原盤・歌唱実演・配信の分配と楽曲の利用許諾

一つの楽曲には、詞と曲の著作権、歌唱の実演家の権利、録音の原盤権という三つの権利が重なります。

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自分で作った曲でも、録音の費用をレーベルが出していれば、原盤権はレーベルにあり、配信を止められないことがあります。

このページの要点

  • 原盤権は音を最初に固定した者(著作権法2条1項6号)に生じる。作詞作曲者であることから当然に生じるものではない。
  • 歌い手の契約では、著作隣接権・パブリシティ権を実演家に残し、依頼主には利用の許諾だけを与える設計がある。
  • 終了後の配信の継続期間、その間の分配、取り戻しの対価の算定方法を契約時に決めておく。
  • 楽曲を使う側の契約では、認める改変(カット、ピッチ・リズムの多少の変更など)を例示する。

結論:作詞作曲(著作権)、歌唱(実演家の権利)、録音(原盤)を分けて、誰に何が残るかを書く

歌手やVTuberの歌、歌い手の歌唱の依頼、レーベルとの楽曲のリリースなど、音楽の契約では、一つの楽曲に性質の違う権利が重なります。①詞と曲の著作権(作詞者・作曲者に生じる)、②歌唱や演奏をした実演家の権利(著作隣接権)、③その音を最初に録音した者の権利(レコード製作者の権利。いわゆる原盤権)の三つです。契約書でこの三つを区別せずに「楽曲に関する権利はすべてレーベルに帰属する」と書くと、自作曲の著作権まで手放したのか、録音だけなのかが分からなくなります。

特に誤解されやすいのが原盤権です。原盤権は、作詞者・作曲者のような著作者の権利ではなく、レコードに固定されている音を最初に固定した者(レコード製作者。著作権法2条1項6号)に生じる権利で、そのレコードを複製する権利(96条)や送信可能化する権利(96条の2)などを内容とします。実務では、原盤の制作費を負担した者を最初に音を固定した者として扱い、原盤権を帰属させる取り決めが多く見られます。自分で作った曲であっても、録音の費用をレーベルが出していれば、原盤権はレーベルにある、ということが起こります。

このページでは、歌い手の事務所の契約、VTuber兼インディーズ歌手とレーベルの契約、楽曲提供会社とYouTuberの契約などのレビューから、権利の帰属、契約終了後の配信、分配の書き方を整理します。歌唱の実演を含む実演家の権利の一般論は肖像・パブリシティ権のページをご覧ください。

三つの権利の違い

一つの楽曲に重なる三つの権利

権利誰に生じるか主な内容契約で決めること
著作権(詞・曲)作詞者・作曲者複製、公衆送信、編曲などの利用譲渡か許諾か。著作権管理団体への登録を誰が決めるか
実演家の著作隣接権歌唱・演奏をした実演家録音・録画、送信可能化、録音物の譲渡・貸与など譲渡か許諾か。実演家人格権の扱い
レコード製作者の権利(原盤権)音を最初に固定した者レコードの複製、送信可能化など誰に帰属させるか。共有や将来の譲渡の条件

原盤権は、作詞者・作曲者であることから当然に生じるものではありません。誰が最初に音を固定したか(実務では、誰が原盤の制作費を負担したか)で決まります。

VTuberが歌う場合も、考え方は同じです。キャラクターの名義で歌っていても、実際に歌唱という実演をしたのは演者ですから、実演家の権利は演者に生じます。運営とVTuberの演者の契約で、キャラクターとしての歌唱の権利を運営にどう処理するのか(譲渡か許諾か)を書いておかないと、演者が交代したり退所したりしたときに、過去の歌唱の音源を誰がどう使えるのかが決まりません(VTuberのページ)。

歌い手の事務所が個人の依頼主から歌唱の依頼を受ける契約のレビューでは、契約書の名称を「歌唱実演許諾契約書」としていた点を、「実演」「許諾」という用語が正確だと評価しました。歌い手が提供するのは歌唱という実演で、依頼主はその実演を利用する許諾を受ける、という関係が名称に表れているからです。名称は契約の性質を決めるものではありませんが、当事者が何を約束したのかを最初に示す役割があります。

歌い手が依頼を受けるとき:実演家の権利を手元に残す

この歌唱実演許諾契約書は、実演家の側を守る設計で作られていました。録音権・録画権(91条)、送信可能化権(92条の2)、貸与権等(95条の3)などの著作隣接権は実演家に残して譲渡せず、実演家人格権も、行使しないという特約をしないことを明記し、パブリシティ権と声はすべて実演家に留保したうえで、依頼主には利用の許諾だけを与える、という組み立てです。実演家人格権について「不行使特約をしない」と明記したのは、依頼主が歌唱の音源を切り貼りしたり、別の歌詞に差し替えたりして、実演家の名誉や声望を害する形で使うことを防ぐためです。多くの契約では人格権を行使しないとする特約が置かれるため、あえて逆の約束を書いておくことに意味があります。

依頼主は個人で、事業としてではなく契約しているため、この契約は消費者契約法の消費者契約に当たります(消費者契約法2条1項・3項)。レビューでは、報酬の10倍や最低額を定める違約金の条は、消費者を相手にする契約では減額・無効の対象になりやすい筆頭だと指摘しました。依頼主が契約を解除したときの違約金は、同じような歌唱の依頼の解除で歌い手の側に通常生じる平均的な損害を超える分について効力が否定され(同法9条1項1号)、信義則に反するほど依頼主に一方的に不利な条項は、無効となります(同法10条)。あわせて、改正前の民法420条1項後段にあった、裁判所は予定された賠償額を増減できないとする定めは、平成29年の民法改正で削除されていることを踏まえ、違約金を基本の額としつつ、実際の損害がそれを超えるときは超える部分を請求できる形(実損害の上乗せ型)を提案しました。

改訂後の歌唱実演許諾契約書で新たに置かれた条

実演家の自己利用の許諾

  • 依頼主が実演家に、完成した歌唱の音源の利用を許諾する(逆向きの許諾)
  • 無償・無期限・非独占
  • 依頼主のための歌唱でも、実演家が自分の活動の実績として紹介できる

分配の枠と報告の頻度

  • 一定額までの収益は分配の対象外とする枠を置く
  • 報告と送金を年1回にまとめる
  • 個人の依頼主の事務の負担を現実的な水準にし、報告が途切れることによる紛争を防ぐ

報告書では、この二つの条を、実演家の活動の基盤を守りつつ依頼主の負担にも配慮した改訂として評価しました。

このレビューで依頼者が最も重視していたのは、将来の所属の変更のときに、こちらの都合で配信の取下げを依頼主にお願いできるか、という点でした。改訂後の契約書では、取下げを請求できる事由として所属の変更が明文化され、契約期間中も自動更新の後もいつでも請求できる形になっており、報告書では、実演家の側から見て望み得る最も高い水準だと評価しました。ただし、取下げのときに依頼主への返金をしないとする条は、消費者契約法10条で争われ得ること、原盤権は依頼主に帰属するため、取下げができても同じ録音を新しい事務所で再びリリースする権利まであるわけではないことも、あわせて指摘しています。

原盤権の帰属:制作費の負担と、将来の取り戻し

原盤権を誰に置くかは、契約終了後の楽曲の扱いを左右します。歌い手の契約のレビューでは、原盤権が依頼主に帰属する以上、同じ録音を新しい事務所で再びリリースする権利はなく、将来の流用まで考えるなら、原盤権を実演家に留保するか共有にすることを検討するよう提案しました。

VTuberとして活動しながらインディーズで歌手活動をする方が、レーベルから示された楽曲リリース・配信契約書のレビューを依頼された案件では、原盤権は「制作費を最も出資した者」に帰属するという条と、制作費をレーベルが一律に負担するという別の条の関係がはっきりせず、結果として常にレーベルが原盤を持つことになる、と指摘しました。修正の方向として、費用の負担割合に応じた共有や、一定の条件を満たしたときにアーティストへ譲渡する条を提案しています。

原盤権の置き方の選択肢

レーベル・依頼主に帰属

  • 制作費を全額負担する側に置く基本形
  • アーティストは配信の継続・停止を決められない
  • 取り戻しの条件(譲渡の対価など)を書いておく

共有

  • 費用の負担割合に応じて持分を決める
  • 利用・配信の停止の決め方(全員の同意か、多数か)を書く
  • 持分の譲渡の制限を置く

アーティストに留保

  • 自作曲で、アーティストが費用を負担する場合
  • レーベルには配信の許諾を与える
  • レーベルの投資の回収を分配率で手当てする

レビューでは、相手方のレーベルがこの契約を「アーティストに有利な内容」と説明していたのに対し、収益の管理、原盤権、配信の継続の意思決定のいずれもレーベルが事実上の優越的な地位を持つ構造だとして、「形式的な自由」と「実質的な拘束」の差がある、と回答しました。契約書の説明を受けるときは、原盤権、配信の継続の決定権、収益の管理の三つを、誰が握っているかを確かめるのが近道です。

音楽・芸能の練習生を育成する事務所の練習生契約書には、講座に関連するSNSのアカウントや音源の権利は事務所に帰属し、練習生が希望する場合は事務所が練習生の楽曲を買い取ることができる、とする条がありました。練習生の契約でこうした定めを置くときは、アカウントの管理・利用の権限、音源の著作権・著作隣接権・原盤権の帰属と利用の許諾、と権利ごとに分けて定めておくと、デビュー後の契約に引き継ぎやすくなります。練習生の段階で作った楽曲や音源の権利の扱いは、その後デビューしたときの原盤権にも影響するため、育成の段階から書いておく必要があります(未成年・練習生のページ)。

契約終了後の配信の継続と、取下げの請求

楽曲リリース・配信契約書には、契約が終わった後も、終了日から3年間は配信を続け、分配の比率も同じとすること、配信の停止を希望するときは3年が過ぎてから協議し、原盤を有償で譲渡すること(対価は制作費と平均の収益を合わせた額)を定める条がありました。レビューでは、これでは実質的にアーティストが自作曲であってもコントロールを取り戻せないと指摘し、譲渡の条件を制作費の実費だけにするなどの修正を提案しました。

配信の継続と取り戻しの流れ(改訂の方向)

  1. 契約の終了終了日から一定期間は、同じ分配比率で配信を続ける
  2. 継続期間の満了アーティストは配信の停止又は原盤の譲渡を申し込める
  3. 対価の算定制作費の未回収分(実費)を基本とし、算定の根拠を示す
  4. 譲渡・停止譲渡なら原盤権を移転し、停止ならレーベルは配信を止める

歌い手の契約では、取下げを請求したのに7日以内に取り下げない場合に日額の違約金を定め、取下げの実効性を確保していました。

配信の継続の条は、レーベルの投資の回収と、アーティストの将来の活動の自由との釣り合いの問題です。継続の期間、その間の分配、取り戻しの対価の算定方法の三つを、契約の時点で決めておけば、終了のときに一から交渉する必要がなくなります。所属の変更にともなう配信の扱いは退所・契約終了後のページでも触れています。

分配と楽曲の利用許諾:パターン、別紙、管理団体

楽曲リリース・配信契約書では、レーベルが提供した楽曲のサブスクリプションの収益はアーティストに20%、アーティストの自作曲は50%、物販とライブはアーティストに100%、というパターン分けをし、別紙の条件を優先すると定めていました。レビューでは、本文と別紙の両方に分配率が書かれて重なっている点、累積の分配額が一定額を超えた翌月に支払う仕組みの扱いを確認するよう指摘しています。分配率を本文と別紙の両方に書くと、改定のときに片方だけが直されて食い違う原因になります。数字はどちらか一方に置き、もう一方は参照にとどめます。

累積額が一定額を超えた翌月に支払う仕組みは、少額の振込を毎月繰り返さないための合理的な工夫です。ただ、その一定額に届かないまま契約が終わった場合の扱い(終了時に精算するのか、切り捨てるのか)を書いておかないと、最後の分配が宙に浮きます。楽曲提供会社とYouTuberの契約は、少額は翌期に繰り越す一方で、終了後に生じた印税は分配しないという組み立てです。この型では、終了の時点で繰り越されている分の扱いも決めておくと安心です。

歌い手の契約では、依頼主のチャンネルの付随収益(第1種)を一律50%とする条について、根拠がやや強めだと評価しました。依頼主のチャンネルの収益には、歌唱以外の要素(依頼主自身の企画や編集)による部分も含まれるからです。一定額を超える部分を、源泉徴収前の総額で、費用を控除せずに50%とする設計の扱いも確認しています。

楽曲提供会社とYouTuberの楽曲利用契約で決めたこと

項目定めた内容
分配楽曲提供会社が受け取る楽曲印税の80%をYouTuberに支払う。少額の場合は翌期に繰り越す
支払の停止楽曲の利用料を支払う委託先の企業が不払いのときは、支払を停止する
終了後楽曲の利用許諾は終了後も存続するが、終了後に生じた印税は分配しない
改変の範囲楽曲の本質を損なわない範囲(一部のカット、ピッチやリズムの多少の変更)まで

楽曲提供会社とYouTuberの契約で、楽曲の利用料を支払う委託先の企業が不払いのときは分配の支払を停止する、としたのは、楽曲提供会社自身が利用料を受け取れない限り、分配の原資がないからです。分配の原資が第三者からの入金に依存する契約では、入金がない場合の扱いを定めておかないと、受け取っていないお金の分配を求められることになります。

楽曲リリース・配信契約書のレビューでは、著作権管理団体への作品の登録についても、アーティストの裁量を尊重するよう求めました。歌い手の契約のレビューでは、依頼主が持っていない権利を実演家に与えることはできない(無権利者の処分)という原則から、依頼主が用意する楽曲の出所を確認する条の必要を指摘しています。歌ってみたの依頼のように、他人の楽曲を使う場合は、詞と曲の著作権の処理が依頼主の側でできているかを、契約の前提として表明してもらうことが大切です。

楽曲を使う側の契約:改変の範囲と、詞・曲の権利の処理

楽曲提供会社とYouTuberの契約のように、他人が作った楽曲を動画や配信で使う契約では、改変できる範囲を具体的に書くことが特に重要です。詞と曲の著作者は、著作物の同一性を保持する権利を持ち、その意に反して変更、切除その他の改変を受けません(著作権法20条1項)。実演家の同一性保持権が「名誉又は声望を害する」改変に限られている(90条の3第1項)のと比べ、著作者の権利は「意に反する」改変に広く及びます。動画に合わせて曲を短くする、テンポを変える、といった日常的な加工も、契約で認めておかなければ争いの種になり得ます。

事務所が作成した楽曲利用の契約書では、改変を、楽曲の本質を損なわない範囲(一部のカット、ピッチやリズムの多少の変更)までに限って認めました。認める加工を例示しておくことで、使う側は安心して編集でき、作った側も、楽曲の印象を大きく変える編曲までは許していないことを示せます。編曲そのもの(著作権法27条の翻案権の対象)を認めるなら、別に定める必要があります。また、著作権の譲渡の契約でも、27条・28条の権利を譲渡の目的として特に掲げていなければ、その二つは元の権利者の手元に残ったものと推定されます(著作権法61条2項)。

ヒヤリングの問いと理由 楽曲の契約で最初に確かめること

  1. 詞と曲は誰が作ったか。自作か、レーベル・依頼主が用意したものか、既存の楽曲のカバーか。

    誰が著作権を持っているかで、許諾を得る相手と、契約で表明してもらう事項が変わります。

  2. 録音(原盤)の費用は誰が負担するか。スタジオ、ミックス、マスタリングまで含めて誰が支払うか。

    費用の負担は、原盤権の帰属の取り決めの土台になります。

  3. 配信は誰の名義・アカウントで行い、収益は誰の口座に入るか。

    配信の名義と収益の入口が、分配の計算と、終了後の配信の継続・停止の手続を決めます。

  4. 著作権管理団体に作品を登録するか。登録するなら誰が決め、誰が手続をするか。

    登録すると、利用の許諾や使用料の徴収を管理団体が行うようになり、個別の利用許諾の条との関係を整理する必要があります。

  5. 契約が終わった後、配信を続けるか、止めるか。止めるときの費用は誰が負担するか。

    終了後の扱いを決めておけば、所属の変更や活動休止のときに一から交渉する必要がなくなります。

歌い手の契約のレビューでは、AIの学習や声のクローンの作成を禁止し、違反に違約金を定める条も確認しました。歌唱の音源は、声そのものを学習させやすい素材です。依頼主に音源の利用を許諾する場合も、AIの学習への利用を許諾の範囲から明示的に外しておくことが、実演家の側の基本の手当てになります(肖像・パブリシティ権のページ)。

音楽の契約で起きがちなこと

よくあるご質問

原盤権と著作権は、何が違いますか?

著作権は詞と曲を作った作詞者・作曲者に生じる権利です。原盤権は、レコードに固定されている音を最初に固定した者(レコード製作者。著作権法2条1項6号)に生じる権利で、録音物の複製や送信可能化をコントロールします。実務では原盤の制作費を負担した者に帰属させる取り決めが多く、作詞作曲者と原盤権者は一致しないことがあります。

事務所やレーベルを辞めた後も、曲は配信され続けますか?

契約しだいです。終了後も一定期間(例えば3年間)配信を続ける条を置く契約があります。継続の期間、その間の分配、配信を止めたいときの原盤の譲渡の対価の算定方法を、契約の時点で確認しておくことが大切です。

自作曲の録音を取り戻すには、どうすればよいですか?

原盤権が相手方にある場合は、原盤権の譲渡を受ける必要があります。契約に譲渡の条件があればそれに従い、対価は制作費の未回収分(実費)を基本にするなどの修正を交渉します。費用の負担割合に応じた共有にしておく方法もあります。

歌ってみたや依頼の歌唱では、権利は誰に残りますか?

歌唱の実演家の権利(著作隣接権)は歌い手に生じ、契約で譲渡しない限り歌い手に残ります。事務所がレビューした歌唱実演許諾契約書では、著作隣接権もパブリシティ権も歌い手に留保し、依頼主には利用の許諾だけを与える形でした。録音の原盤権は、録音の費用を負担した側に帰属させる取り決めが多い点に注意してください。

YouTubeで使う楽曲の印税は、どう分けるのが一般的ですか?

決まった水準はありません。事務所の書類では、楽曲提供会社が受け取る楽曲印税の80%をYouTuberに支払う例がありました。分配率に加えて、少額の繰越し、利用料の不払い時の扱い、終了後の印税の扱い、改変できる範囲を決めておきます。

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