退所・契約終了後の処理

退所の後に残る「作品」「表示」「登録」「権利」の四つの扱いは、契約の最初に決めておきます。

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退所したのに、事務所のサイトに所属タレントとして載り続けていると、取引先はどちらに仕事を頼めばよいか分かりません。

このページの要点

  • 公開済みの動画は、継続の期間を年数で書き、期間後の扱い(終了・要請で終了・協議)を一緒に決める。
  • 終了後は新たな広告に使わず、過去の所属は事実と期間を正確に表示する限り実績として残せる形にする。
  • 登録解除は効力発生日から何営業日以内に申請するかを決め、精算の未了を移籍への協力を拒む理由にしない。
  • 過去の作品は、著作権の帰属を変えずに、人格的な利益に基づいて新たな利用を終わらせる合意で整理できる。

結論:退所の後に残る「作品」「表示」「登録」「権利」の四つを、契約の最初に決めておく

契約が終わっても、タレントと事務所の関係がすぐに消えるわけではありません。事務所のチャンネルに残る出演動画、事務所のサイトの所属タレントの一覧、ライブ配信のプラットフォームの所属登録、過去の作品の販売と権利。退所の場面では、この四つの後始末が必ず問題になります。そして、契約書にその扱いが書かれていないと、退所を申し出た後に一から交渉することになり、関係が悪くなった状態での交渉は、たいていうまくいきません。

事務所が作成・レビューしてきた書類では、①公開済みの動画や作品の配信を続けるか、②事務所の所属の表示をいつまでにどう変えるか、③プラットフォームの登録の解除をいつまでに申請するか、④過去の作品の新たな利用を止められるかを、契約の段階で決める方向に改訂してきました。退所の時点では、覚書を交わして個別の事情を反映させます。

芸能分野の指針も、実演家が契約の満了にあたって移籍・独立を申し出た際は、円滑に移籍・独立できるよう、移籍後の活動に必要な連絡先や留意事項を移籍先の事務所に伝えるなど適切に対応すること、移籍・独立を妨害するような言動をしないことを求めています。問題となり得る行動例として、退所を認めながら、手続がまだ行えないなどと退所を引き延ばすことも挙げられています。終了後の活動制限は移籍制限・違約金のページ、アカウントの扱いはアカウント・芸名のページで扱います。

公開済みの動画・作品の配信を続けるか

立ち上げ期のタレント事務所に向けた提案書では、契約終了後も公開済みの動画の配信を続けられる条を置き、退所のたびに過去の動画を削除する事態を防ぐよう提案しました。ヒヤリングシートでは、終了後の扱いを、継続する、本人が求めたら非公開にする余地を残す、案件によって決める、の中から選んでもらっています。

芸能プロダクションの所属契約書では、契約終了後2年間に限り、事務所がその媒体を引き続き販売・配信・表示することを無償で許諾し、期間が終わった後は、タレントの要請があれば速やかに終了する、と定めました。二次的な利用の条は、修正の過程で「別途書面で対価を定める」から「協議のうえ合意する」に改め、最終的には削除しています。別の専属マネジメント契約書では、終了後5年間又は目的を達成するまでのいずれか長い期間、という定めでした。

終了後の配信の継続の書き方(事務所の書類から)

書類継続の期間期間後・その他
芸能プロダクションの所属契約書終了後2年間、無償で継続期間後はタレントの要請で速やかに終了
専属マネジメント契約書終了後5年間又は目的達成までの長い方「目的達成」の意味を具体的にしておく必要
楽曲リリース・配信契約書終了後3年間、同じ分配比率で継続停止は3年後に協議し、原盤の有償譲渡
マネジメント契約の解除覚書配信動画の扱いを個別に定めるタレントは二次利用の停止や一部の非公開を申し出られる

ヒヤリングで選んでもらった終了後の扱い

継続する

  • 公開済みの動画・作品は終了後も配信を続ける
  • 事務所のチャンネルの資産を守れる
  • 継続の期間と、新しい広告に使わないことを書く

本人が求めたら非公開の余地

  • 原則は継続し、本人の申出で非公開にできる
  • 申出の方法と、事務所が応じる基準を書く
  • 移籍後の活動との衝突を避けやすい

案件ごとに決める

  • 取引先との契約で配信の期間が決まっている案件もある
  • 個別案件の条件で終了後の扱いを示す
  • 案件の一覧を退所時に作って確認する

所属契約書の改訂では、二次的な利用の条を最終的に削除し、終了後の継続の条だけを残す形にしました。条を増やすほど解釈が分かれるため、決める必要のある範囲に絞る考え方です。

期間を「目的を達成するまで」のような基準で定める場合は、その目的を具体的に書いておかないと、いつ終わるのかが双方にとって分かりにくくなります。期間を年数で書き、期間後の扱い(終了するのか、タレントの要請で終了するのか、協議するのか)を一緒に書いておくのが、双方にとって分かりやすい形です。楽曲の配信の継続は音楽・原盤のページで詳しく扱っています。

反対に、タレントの側が退所した後に、所属していた時期の作品を使いたい場合もあります。芸能分野の指針は、退所した実演家などから利用の許諾を求められたときは、許諾しないことに合理的な理由がなければ許諾し、許諾しないときは理由を十分に説明すべきだとしています。終了後の配信の条と一緒に、タレントの側からの利用の申込みの手順も置いておくと、双方向の整理ができます。

新しい広告への使用の禁止と、所属の表示

ライバー事務所の既存の契約書への逐条コメントでは、退所した後も、現在の所属者であるかのように表示し続けることは、移籍後の活動の妨げになり、表示の問題にもなると指摘しました。改訂版では、終了後の扱いを次のように定めています。

終了後の肖像等と所属の表示(改訂例の要旨)

1甲は、本契約の終了後、乙の肖像等を新たな広告物に使用しない。

2甲は、乙が甲に所属していた事実及びその期間を正確に表示する限り、本契約の期間中に公開した活動の実績を引き続き掲載することができる。乙から合理的な理由に基づく削除の申出があったときは、相当な期間内に対応する。

3甲及び乙は、本契約の終了後、相当な期間内に、それぞれが管理する媒体における現在の所属の表示を削除し、又は変更する。

第2項は、事務所の実績の紹介と、タレントの移籍後の活動の自由との釣り合いをとった条です。「元所属」「○年から○年まで所属」と正確に書く限り、実績として残せます。

所属の表示の削除を双方の義務にしているのは、タレントの側のプロフィールやSNSにも事務所の名前が残っていることがあるからです。退所したタレントが事務所の名前を使い続けると、事務所の信用の問題にもなります。どちらか一方だけの義務にせず、双方が相当な期間内に表示を直す、と書くのが公平です。

「現在の所属」と「過去の所属の実績」を区別することは、移籍先の事務所にとっても意味があります。退所したタレントが前の事務所のサイトにまだ所属として載っていると、取引先は、どちらの事務所に仕事を頼めばよいのか分からなくなります。一方で、前の事務所が「○年から○年まで所属」と正確に実績を載せることまで止めると、事務所の側の正当な紹介の利益を損ないます。改訂例の第2項は、この二つを分けて扱うための条です。

登録の解除と、移籍への協力

ライブ配信のライバーは、プラットフォームの上で事務所(代理店)の管理下に登録されています。逐条コメントでは、事務所が一次代理店の判断を理由に退所を無期限に保留するリスクを指摘しました。改訂版では、終了の効力が生じた日から原則として5営業日以内に一次代理店へ登録の解除を申請し、遅れるときは理由と見込みの時期をライバーに説明すること、未払金などの紛争があることだけを理由に、移籍への協力を拒まないことを定めています。

退所の手続の流れ(ライバー事務所の改訂版から)

  1. 終了の効力発生解約の予告期間の満了、期間満了、合意による終了
  2. 登録解除の申請原則5営業日以内に一次代理店へ申請する
  3. 遅れる場合の説明理由と見込みの時期をライバーに説明する
  4. 表示の変更双方が現在の所属の表示を削除・変更する
  5. 精算確定した報酬を支払う。紛争だけを理由に移籍の協力を拒まない

一次代理店側の依頼者のヒヤリングでは、ライバーの退会はプラットフォームの定める方式で行い、原則として契約期間を全うするよう働きかけること、希望があれば本部の事務所へ移籍できることが回答されていました。代理店の内部での移籍の道を用意しておくことは、ライバーにとっても選択肢を増やします。ただ、契約期間を全うするよう働きかけることと、退所の手続そのものを止めることは別のことです。登録の解除の期限を契約に書いておけば、働きかけが引き延ばしに変わることを防げます(ライバー事務所の契約のページ)。

芸能分野の指針は、実態調査で実演家から寄せられた妨害の例として、入所時の説明と違って契約期間の満了時に退所させないこと、移籍・独立するとその後の芸能活動を一切行えなくなると脅すこと、契約上、期間中に他の事務所と移籍の交渉を行うことを禁じること、悪評を移籍予定先の事務所やマスコミに流すこと、担当マネージャーの転職を禁じるなどしてマネージャーと一緒の移籍を妨げることを挙げています。参考となる行動例としては、移籍・独立の申出があったときに、移籍先の事務所に必要な連絡先や留意事項を伝えるなど、円滑に移籍できるよう対応している例や、残ってもらうためにより良い条件を示して交渉はするが、実演家の今後の活動に影響を与える言動はしない例が紹介されています。

退所の手続を契約に書くときは、事務所が「何をするか」も書いておくと、移籍への協力の中身がはっきりします。たとえば、進行中の案件の取引先への連絡と引継ぎ、移籍先の事務所への必要な情報の伝達(本人の同意を得たうえで)、事務所の名義で管理しているスケジュールや案件の資料の引渡しなどです。

退所の時に交わす覚書

芸能プロダクションのマネジメント契約を解除する際の覚書には、二つの版がありました。いずれも、元の契約のうち終了後も効力を持つ条(権利義務の譲渡の禁止、秘密保持、品位の保持、著作権、禁止行為)を確認したうえで、配信動画の扱いについて、タレントは事務所に対し、二次利用の停止や一部の非公開を申し出ることができ、事務所が申出を受け入れたときは二次利用をしない、と定めています。覚書には、タレントからの個別の申出と、事務所の受諾を記入する欄も設けていました。

退所の覚書を交わす意味は、元の契約のどの条が終わった後も生きているのかを当事者の間で確認し直すことと、配信動画の扱いのように元の契約では決めきれなかった事項を、退所の時点の事情に合わせて決めることにあります。タレントからの申出と事務所の受諾を記入する欄を設けておけば、何を申し出て、何が受け入れられたのかが書面に残り、退所の後に「言った」「言わない」の争いになりません。

退所の時に精算する項目(設計の例)

項目精算の方法決めておくこと
確定した報酬通常の支払期日に支払う退所を理由に支払を留保しない
履行中の案件の報酬案件の終了後、通常どおり分配する退所後も案件を最後まで務めるか、交代するか
立て替えた経費明細を示して精算する契約で定めた経費に限る
グッズ・写真集の在庫在庫の販売期間を決め、期間中の売上は通常どおり分配する期間後の在庫の扱い(廃棄・本人への引渡し)
育成費の精算契約で定めがある場合に限り、算定根拠を示して協議する定めのない費用は請求しない

精算が終わっていないことを、移籍への協力や登録の解除を止める理由にしない、と覚書に書いておきます。

ヒヤリングの問いと理由 退所の覚書で確認すること

  1. 元の契約のどの条が、終了後も効力を持つか。

    秘密保持、品位の保持、著作権、禁止行為など、終了後も効力を持つ条を、覚書の中で一つずつ確認します。

  2. 公開済みの動画や作品を、継続するか、非公開にするか。

    タレントの申出の手順と、事務所が受け入れたときの扱いを書きます。

  3. 未払いの報酬、立て替えた経費の精算をいつ行うか。

    精算の期日を決め、精算が終わっていないことを理由に移籍の協力を拒まないとしておきます。

  4. 今後、お互いに何を請求しないか。

    覚書に定めるもの以外に債権債務がないことを確認する清算の条を置くかどうかを決めます。

過去の出演作品の新たな利用を止める合意

過去に出演した映像作品について、肖像や芸名の利用の停止を求める元出演者から依頼を受けた案件では、権利関係の整理、肖像の利用の終了、掲載の削除を一つにまとめた包括的な合意書(全32条)を作成しました。この合意書の組み立ては、著作権の帰属は確定したものとして変更しないことを前提に、元出演者の人格的な利益(肖像、氏名、プライバシー、生活の平穏)に基づいて、新たな利用を終わらせる、というものです。

  • 作品の著作権の帰属は変更しないことを確認する。
  • 元出演者の肖像・芸名を使った新たな利用(新たな販売、配信、広告など)を終了する。
  • 第三者に新たな利用を許諾しない。
  • 制作した側が管理する媒体での削除・非表示を行う。
  • 第三者の媒体での掲載について、元出演者が削除を要請するときに協力する(中古品の流通、動画共有サイト、検索エンジンへの対応を含む)。
  • 互いに権利を争わないこと、損害賠償の請求を主な目的としないことを確認し、清算の条を置く。

著作権の帰属そのものを争うと、話し合いは長引きます。権利の帰属は動かさないまま、人格的な利益に基づいて新たな利用だけを止める、という切り分けは、制作した側にとっても受け入れやすい組み立てです。「損害賠償の請求を主な目的としない」と書いたのも、相手方が身構えずに合意できるようにするためです。

合意書に付けたオンラインモールへの削除申請のガイドでは、著作権を理由にする申請と、肖像・プライバシーを理由にする申請の使い分けと、権利者本人が申請するときの記載事項を整理しました。第三者のサイトでの掲載は、合意の当事者だけでは止められないため、権利を持つ制作した側の協力と、本人による申請の両方の道を用意しておくことが大切です。

第三者の媒体での掲載を止める二つの道

著作権を理由にする申請

  • 著作権を持つ制作した側が申請する
  • 無断の複製・アップロードに有効
  • 合意書で、制作した側が申請に協力する義務を定める

肖像・プライバシーを理由にする申請

  • 写っている本人が申請する
  • 権利者本人であることの説明と、対象の掲載の特定が必要
  • 中古品の出品の説明文や画像など、著作権の問題にならない掲載にも使える

どちらの道が使えるかは、掲載の形と、各サイトの申請の窓口の定めによって変わります。

この合意書は、退所の場面に限らず、過去の活動の後始末という点で、芸能の契約の終わり方を考えるうえでの一つの型になります。契約が終わった時点では問題にならなかった作品でも、年月が経って本人の生活や仕事が変わると、新たな利用を止めたいという事情が生じることがあります。マネジメント契約や出演の契約に、将来、本人から新たな利用の停止の申出があった場合に協議する、という一文を置いておくだけでも、その時の話し合いの入口になります。

起用契約・楽曲の契約の終了

案件ごとの契約にも、終了後の扱いがあります。イメージキャラクター契約書では、契約が終わったら肖像などの使用を停止し、30日以内にデータを消去・返還する、と定めていました(起用・出演・PR案件のページ)。印刷物や店頭の掲示物のように、すぐには回収できないものがある場合は、回収の期限や、終了時点で配布済みのものの扱いを書いておく必要があります。

楽曲の契約では、終了後3年間は配信を続け、停止は3年が過ぎてから協議して原盤を有償で譲渡する、という条があった楽曲リリース・配信契約書と、所属の変更・活動休止・引退のときに配信の取下げを請求でき、取り下げなければ日額の違約金とする歌唱実演許諾契約書がありました。退所や移籍のときに、楽曲の配信がどうなるのかは、マネジメント契約だけでなく、楽曲ごとの契約を確認しなければ分かりません。退所の覚書を作るときは、楽曲や出演作品の契約の一覧を作り、それぞれの終了後の扱いを確かめておくと漏れがありません。

もう一つ見落としやすいのが、マネジメント契約の終了と、案件ごとの契約の終了の時期のずれです。マネジメント契約が終わっても、事務所が窓口となって結んだイメージキャラクター契約や出演の契約が、まだ期間の途中ということがあります。その案件を退所後もタレントが務めるのか、事務所が取引先と協議して契約を終わらせるのか、務める場合の報酬の分配はマネジメント契約の条件を続けるのか。マネジメント契約の中途解約の条で「履行中の個別案件は、その案件の終了まで本契約の定めに従う」と書いておけば、この問いの多くに答えられます(契約期間・解除のページ)。

退所・契約終了後で起きがちなこと

よくあるご質問

退所したら、出演した動画は消してもらえますか?

契約しだいです。公開済みの動画は終了後も一定期間(例えば2年間)配信を続け、期間後はタレントの要請で終了する、と定めた所属契約書があります。退所の覚書で、タレントが二次利用の停止や一部の非公開を申し出られるとした例もあります。契約書に定めがなければ、覚書で個別に決めます。

事務所のサイトに「所属」と残り続けているときは?

事務所の改訂例では、終了後は新たな広告物に肖像等を使わないこと、所属していた事実と期間を正確に表示する限り実績として掲載できるが、合理的な削除の申出には相当な期間内に対応すること、双方が現在の所属の表示を削除・変更することを定めました。

プラットフォームの所属登録が外れないときは、どうすればよいですか?

契約書に登録解除の期限があるかを確認します。改訂例では、終了の効力発生日から原則として5営業日以内に一次代理店へ申請し、遅れるときは理由と見込みの時期を説明すると定めました。芸能分野の指針も、手続がまだ行えないなどと退所を引き延ばすことを問題となり得る例に挙げています。

昔の出演作品の販売を止めてもらうには、どうすればよいですか?

著作権が制作した側にあっても、肖像や氏名、プライバシーなどの人格的な利益に基づいて、新たな利用の終了を話し合う方法があります。事務所が作成した合意書では、著作権の帰属は変えずに、新たな利用の終了、第三者への許諾の禁止、管理媒体での削除、第三者のサイトでの削除要請への協力を定めました。

イメージキャラクターなどの案件で使われた写真は、契約が終わるとどうなりますか?

案件ごとの契約の定めによります。事務所が作成したイメージキャラクター契約書では、契約が終わったら肖像などの使用を停止し、30日以内にデータを消去・返還すると定めました。印刷物や掲示物のようにすぐ回収できないものは、回収の期限や配布済みの分の扱いも決めておきます。

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